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東京五輪1年“延期”による選手への影響。チャンスが巡ってきた者、一線を退く者

生島淳

2020.10.07

競泳平泳ぎのホープ佐藤翔馬(左)と、引退を決意した新鍋理沙(右)。(C)Getty Images

競泳平泳ぎのホープ佐藤翔馬(左)と、引退を決意した新鍋理沙(右)。(C)Getty Images

●若手選手への期待

 1年延期されたことで、チャンスが巡ってきそうな若手もいる。

 陸上男子800メートル、2019年の日本選手権王者は、当時相洋高校3年だったクレイアーロン竜波。彼は2020年の秋からアメリカのテキサスA&M大学に進学したが、アメリカの環境に適応すれば、2021年には世界の一線級と戦える可能性があるかもしれない。

 競泳に目を転じてみると、慶応大学1年生の平泳ぎの佐藤翔馬に注目が集まる。佐藤は2019年9月、男子200メートル平泳ぎで2分9秒21を記録し、18歳未満が対象の世界ジュニア新記録を樹立した。

 そして今年の10月4日、日本学生選手権では、日本記録まであと0秒35に迫る2分7秒02の自己ベストをマークして、大会2連覇を達成した。

 佐藤は「日本記録、さらには世界記録の更新も狙っていたので、残念な気持ちもあるが、まだまだ上がる要素はある。世界で勝つには2分5秒台が必要だと思うので、頑張って練習し、まだまだタイムを伸ばしていきたい」と話したが、佐藤の場合はオリンピックが1年延期されたことで、メダルへの期待が俄然膨らんできた。

 クレイアーロンや佐藤のように、競技者としてこれからピークを迎える20代前半の選手にとっては、東京オリンピックの延期は千載一遇のチャンスになるかもしれない。
 
 その一方で、オリンピックの延期が決まったことで、引退を決めた選手もいる。

 女子バレーボールでは、ロンドン・オリンピックの銅メダル獲得に貢献した新鍋理沙が引退した。

 ケガに悩まされていた新鍋は、引退会見の席上で、

「1年後に納得する姿でプレーしている形が想像できませんでした。絶望というか、私にとっての1年は少しというか……とても長く感じました」

 と真情を吐露した。ベテランにとって、「もう一度、気持ちと体を作り直す」作業は、痛みを伴うものだったのだ。

 たかが1年。されど、1年。

 新鍋をはじめ、地元開催のオリンピックを断念した選手たちにはねぎらいの言葉をかけたい。

 それでも、スポーツは続いていく。

 2021年、東京オリンピックはベテランの集大成のオリンピックというよりも、ひょっとしたら世代交代を印象づける大会になるかもしれない。

文●生島淳
 

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