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ゴルフ場でサッカーボールを蹴る新競技!フットゴルフ日本代表・小林隼人の大きな夢

手嶋真彦

2021.01.25

フットゴルフ日本代表の小林はガナドール フットゴルフクラブに所属している。(C)Yusuke Takeyama

フットゴルフ日本代表の小林はガナドール フットゴルフクラブに所属している。(C)Yusuke Takeyama

 フットゴルフを始めて2年目の16年11月、小林は日本代表初キャップを獲得する。しかし、代表入りは当面の目標にすぎず、早くから次のワールドカップに照準を合わせていた小林は満足していなかった。フットゴルフの第3回ワールドカップは、18年12月にモロッコで開催されることが決まっていた。

 フットゴルファーとしての小林の特長はインサイドキックにある。ゴルファーが場面に応じてゴルフクラブを使い分け、ドライバーなどのウッドで距離を稼ぎ、アイアンで寄せて、パターでカップにボールを沈めるように、フットゴルファーはキックを蹴り分ける。もっとも飛距離が出るのはインステップキックで、世界のトップクラスは平地であれば110~120ヤードという距離を出す。下りの傾斜がついていれば、飛距離はさらに伸びる。小林の平地での飛距離は90~100ヤードなので、たとえばパー5のロングホールでは、3打目までに1打分の差をつけられていてもおかしくない。

 ただし、インステップキックは強くインパクトする分、精度をコントロールするのが難しく、池やバンカーを避けながら距離を出したい場面では、インフロントキックの使用頻度が高くなる。しかし、飛距離と精度を両立しやすいインフロントキックにもデメリットはあり、物理的にカーブがかかる蹴り方なので、バウンドしてからどう曲がっていくか、狙ったところに真っ直ぐ飛んでいくインサイドキックと比べると、予測が難しい。精度のもっとも高いインサイドキックは、通常は短い距離限定で使う選択肢だが、小林は日本人選手ではトップクラスの50~60ヤードという飛距離を出せる。

 インサイドキックを最大の武器として国内屈指のフットゴルファーとなった小林は、17年のジャパンオープンファイナルを制し、初めて日本の年間チャンピオンに輝いた。続く18年にはアジアカップで頂点を極めただけでなく、ジャパンオープンファイナルを連覇して、国内王座を守ってみせた。

 迎えた18年12月――。小林は目標としてきた第3回ワールドカップに出場。2日目を終えて16位につけていた。そのまま100位以内で3日目まで乗り切れば、4日目(最終日)の決勝に進出できる。

 その3日目の競技開始前、小林はどことなく浮き足立っていた。さらなる上位進出を想像したせいかプレッシャーは大きくなり、遠征先のモロッコで心身に蓄積していた疲労の影響もあったのか、ラウンドがスタートしてからも集中できずにいるのが自覚できていた。
 
 フットゴルフもやはり、メンタルスポーツだ。自分でコントロールできるのは自分のプレーだけなのに、いつの間にか順位や首位と何打差といった自分ではコントロールできないことを考えている。プレーの切れ目が少ないサッカーとは違って、フットゴルフには考える時間がふんだんにある。上位につけていれば、つけていたで、余計なことを考えてしまう。便利なもので、スコアや順位の最新情報は、ワールドカップのような大きな大会ではスマホなどで随時確認できる。

〈このパットを沈めたら、優勝に近づくのではないか――〉

 パッティングはフットゴルフでもっとも難しく、もっとも差がつきやすいプレーのひとつだ。グリーンの傾斜や芝の深さを見極め、どの方向に、どの程度の強さでキックするべきか――。集中できている時は、そうやって次のプレーについて考え抜いている時間が、ふと湧いてくる雑念に奪われていく。

 パッティングでとくに肝心なのが蹴る強さで、ジャストタッチで蹴ったボールは、たとえカップのふちをなめても、重力によって吸い込まれるようにカップの底に落ちてくれる。しかしタッチが強すぎると、サッカーボールは軽いので、カップのふちで跳ね上がり、外れてしまう。プレーに集中できなくなっていれば、ジャストタッチに必要な微妙な感覚も狂ってしまいかねない。

 ワールドカップ3日目の小林は悪循環に陥った。ひとつのミスから集中力を失い、スコアを崩す。スコアを取り戻そうと焦り、するとかえって雑念がちらついて、次の1打にフォーカスできない。

 結局、この日だけで13オーバーという大叩きとなり、順位は前日までの16位から一挙に103位に落ちていた。予選を突破できるのは100位まで。つまり1打、余計に蹴っていたのだ。あのホールのあの1打がこうだったらと、いくら悔やんでも、もはや後の祭りだった。
 

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