「作戦は一切、考えてなかったです」
試合後の那須川は言った。「圧倒的に勝つ」、「倒す」ことが目的だったのだ。ガムシャラに向かってくる風音を真正面から受け、呑み込む。そんな闘いをするつもりだった。
ただやはり、那須川の闘いはカウンターなど緻密さ、柔らかさもあってこそ。風音の奮闘に加え、神童と言われる男が精彩を欠いた点も接戦の要因だった。
言ってみれば、この試合の那須川は調子が狂っていた。それも当然かもしれない。なにしろ同門対決だ。やりにくいに決まっている。しかも相手側のコーナーには父親がいて、自分に勝つための策を相手に与えている。試合後の様子を見ても、那須川会長が“打倒・天心”に本気で熱くなっていたのは間違いない。息子からすれば「メチャクチャやりずらかった」。セコンドについた朝倉未来からも、力みを指摘されたそうだ。
同時に、那須川は風音の強さを讃えてもいる。
「強くなってましたね。前に出る気持ちとか思いのこもったパンチとか。気迫がよかった」
【動画】感慨深げなラストシーン! 那須川天心のRISEでのセレモニーをチェック 風音は那須川戦に向け、これ以上はできないというほどの練習に取り組んできた。それを支え、後押ししたのが那須川会長だ。それは息子のためでもあったのだろう。
トレーナーとして、那須川会長にも“理想の那須川天心”の姿がある。親子で常に話し合い、すり合わせ、練習を重ねてここまできた。今回は敵として、風音を勝たせることで息子・天心を成長させようとしたのかもしれない。ノーサイドとなった試合後、控室でも那須川会長は愛息子に熱っぽく話しかけていたという。
もっと強くならなければいけない。それは那須川親子に共通する思いだろう。風音戦の前日には、武尊との“世紀の一戦”の日付と会場が正式に発表された。6月19日、会場は東京ドームだ。
「今のままじゃ、こんな試合してるようじゃ勝てない」
那須川は危機感を募らせた。
「(今回のように)こんな気持ちを揺さぶられているようでは勝てる試合ではないと思うので。意識を集中するというかピーンと張り詰めるというか、何ものにも揺さぶられない試合をしなきゃいけないですね」
RISE卒業マッチ、同門対決、親子喧嘩。さまざまな要素と向き合ったのが今回の試合だった。だが、セコンドにはこれまで同様に那須川会長がつく武尊戦では、相手に勝つという結果に集中できる。そんな次なる闘いのために、この日の親子喧嘩にも意味があったと那須川は考えている。
「今回初めて(会長は)僕の弱点を探すという視点で見たじゃないですか。だからいい経験値になったというか、次に向けていいものを得られたと思います」
泣いても笑ってもキックボクシングの試合はあと1回。那須川が万全の態勢で臨むことになるのは間違いない。その心の中には、自分を育ててくれたRISEへの思いもある。
「これからもRISEのチャンピオンとして闘っていきます」
RISE卒業マッチを経て、那須川天心はさらに強くなる。
取材・文●橋本宗洋
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試合後の那須川は言った。「圧倒的に勝つ」、「倒す」ことが目的だったのだ。ガムシャラに向かってくる風音を真正面から受け、呑み込む。そんな闘いをするつもりだった。
ただやはり、那須川の闘いはカウンターなど緻密さ、柔らかさもあってこそ。風音の奮闘に加え、神童と言われる男が精彩を欠いた点も接戦の要因だった。
言ってみれば、この試合の那須川は調子が狂っていた。それも当然かもしれない。なにしろ同門対決だ。やりにくいに決まっている。しかも相手側のコーナーには父親がいて、自分に勝つための策を相手に与えている。試合後の様子を見ても、那須川会長が“打倒・天心”に本気で熱くなっていたのは間違いない。息子からすれば「メチャクチャやりずらかった」。セコンドについた朝倉未来からも、力みを指摘されたそうだ。
同時に、那須川は風音の強さを讃えてもいる。
「強くなってましたね。前に出る気持ちとか思いのこもったパンチとか。気迫がよかった」
【動画】感慨深げなラストシーン! 那須川天心のRISEでのセレモニーをチェック 風音は那須川戦に向け、これ以上はできないというほどの練習に取り組んできた。それを支え、後押ししたのが那須川会長だ。それは息子のためでもあったのだろう。
トレーナーとして、那須川会長にも“理想の那須川天心”の姿がある。親子で常に話し合い、すり合わせ、練習を重ねてここまできた。今回は敵として、風音を勝たせることで息子・天心を成長させようとしたのかもしれない。ノーサイドとなった試合後、控室でも那須川会長は愛息子に熱っぽく話しかけていたという。
もっと強くならなければいけない。それは那須川親子に共通する思いだろう。風音戦の前日には、武尊との“世紀の一戦”の日付と会場が正式に発表された。6月19日、会場は東京ドームだ。
「今のままじゃ、こんな試合してるようじゃ勝てない」
那須川は危機感を募らせた。
「(今回のように)こんな気持ちを揺さぶられているようでは勝てる試合ではないと思うので。意識を集中するというかピーンと張り詰めるというか、何ものにも揺さぶられない試合をしなきゃいけないですね」
RISE卒業マッチ、同門対決、親子喧嘩。さまざまな要素と向き合ったのが今回の試合だった。だが、セコンドにはこれまで同様に那須川会長がつく武尊戦では、相手に勝つという結果に集中できる。そんな次なる闘いのために、この日の親子喧嘩にも意味があったと那須川は考えている。
「今回初めて(会長は)僕の弱点を探すという視点で見たじゃないですか。だからいい経験値になったというか、次に向けていいものを得られたと思います」
泣いても笑ってもキックボクシングの試合はあと1回。那須川が万全の態勢で臨むことになるのは間違いない。その心の中には、自分を育ててくれたRISEへの思いもある。
「これからもRISEのチャンピオンとして闘っていきます」
RISE卒業マッチを経て、那須川天心はさらに強くなる。
取材・文●橋本宗洋
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