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【名馬列伝】“伝説”と呼ばれるウオッカvsダイワスカーレットの直接対決。ハナ差2㎝に散った松田国英調教師の『言葉』<後編>

三好達彦

2022.10.29

 ゲートが開くと予想通りダイワスカーレットが先頭を奪い、ウオッカは中団の7番手付近を追走。1000mの通過ラップが58秒7という淀みのない流れでレースは進み、3コーナー過ぎから馬群はその長さを縮めながら直線へ向いた。
 
 内ラチ沿いを通って先頭でゴールを目指すダイワスカーレットのスピードの持続力は驚異的で、なかなか後続との差は詰まらない。しかし坂の上りにかけて、外から馬体を並べるように伸びてきたのはウオッカとディープスカイの2頭。そして、粘りに粘るダイワスカーレットに、ディープスカイを競り落としたウオッカが迫り、2頭は内外離れながらも、目視では判断が付かないほどに際どいタイミングでゴールを駆け抜けた。

 着順掲示板に『レコード』の赤い文字とともに走破タイムの『1分57秒2』という数字が示されるが、1、2着の欄は空白のままだった。スタンドの観客からは「まさか同着か」「同着でいいよ」というような声が飛び交い、すさまじいレースを見た興奮に喚起されたどよめきに満ちていた。
 
 ゴールから数分が経った頃だっただろうか。1着の欄には『14』、2着の欄には『7』の数字が表示された。ウオッカがゴールの瞬間、わずかにハナ差、ダイワスカーレットを差していたのだ。この「ハナ差」は、のちに約2㎝しかなかったと言われている。そして、勝ったウオッカから4着のカンパニーまでが同タイムだったという事実も、またこの1戦が稀に見る激闘だったことを示している。

 ウオッカの稿には不似合かもしれないが、取材の現場にいた筆者は、勝者よりも敗れたダイワスカーレットの調教師・松田国英が不敵にも見える笑みを浮かべながら口にした言葉が忘れられない。

「これでウチの馬が、ただの逃げ馬じゃないことが分かってもらえたでしょう」

 ウオッカはこの後のジャパンカップを3着として、翌年に備えて休養に入った。一方のダイワスカーレットは1番人気に推されて有馬記念に出走し、並み居る牡馬たちに影をも踏ませず堂々と逃げ切り勝ちを収める。しかし翌春、左前肢の浅屈腱炎を発症していることが判明。ウオッカとの再戦は叶わず、現役を引退した。
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