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【名馬列伝】「芝でも通用する」アグネスデジタルこそ“元祖二刀流”だと推す理由。唯一無二のオールラウンダーは名伯楽の慧眼が生んだ

三好達彦

2023.08.08

 デビュー戦は2歳の9月(1999年)、阪神ダート1400m。ここは2着に敗れたが、続くダート1200m戦では後続を3馬身突き放して、アグネスデジタルは初勝利を挙げた。

 米国のダート血統のもとに生まれたゆえ、ダートを走るのは当たり前と思う反面、調教などで見せる素軽いフットワークから「この馬は芝でも通用する」と睨んでいた白井。3戦目にはオープンの芝1200m戦、もみじステークスを選ぶが、ここでは10頭立ての8着に大敗したため、芝への進出はいったん取り止め、再びダートへと進路を修正する。

 その年の暮れには交流重賞の全日本3歳優駿(統一GⅡ、現「2歳優駿」)に勝利してダートホースとしての地位を確立したアグネスデジタルは、翌春NHKマイルカップ(GⅠ)を目標に芝路線へと舵を切る。クリスタルカップ(GⅢ)、ニュージーランドトロフィー4歳ステークス(GⅡ)をともに3着として目途を立てた彼は目標の大舞台に臨んだが、ここは厚い壁に跳ね返されて7着に敗れた。

 その後は交流重賞の名古屋優駿(統一GⅢ)、ユニコーンステークス(GⅢ)を制するなどダート戦線で活躍を続けたが、次走の武蔵野ステークス(GⅢ)を2着とした後、驚きの進路を取る。なんと芝のマイルチャンピオンシップ(GⅠ)にエントリーしたのだ。
 
 単勝オッズ55.7倍の13番人気に過ぎず、道中も後方15番手を追走する姿に、その後の展開を想像できたのはほぼいなかった。

 ところが、直線へ向いて大外から追い出されたアグネスデジタルは爆発的な瞬発力を発揮。前をいく馬たちを次々と交わし去り、最後は粘り込みを図る1番人気のダイタクリーヴァを半馬身差し切って優勝。歴史的なアップセットを演じ、調教師の白井は自身の見立ての確かさに溜飲を下げたのだった。

 翌秋から次の春にかけて、アグネスデジタルはいよいよ最高の充実期を迎える。2001年9月の日本テレビ盃(統一GⅢ)、10月のマイルチャンピオンシップ南部杯(統一GⅠ)を連勝すると、陣営はまたも驚きの進路を発表する。次走に天皇賞・秋(GⅠ)への挑戦を打ち出したのだ。しかし、この決断はファンを巻き込む大騒動に発展することになる。
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