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【名馬列伝】大差で突き放す異次元の強さ。“持込馬”であるマルゼンスキーが『史上最強』と主張される理由

三好達彦

2023.07.24

朝日杯3歳Sを大差のレコードで制したマルゼンスキー。写真:産経新聞社

朝日杯3歳Sを大差のレコードで制したマルゼンスキー。写真:産経新聞社

「史上最強馬は何か?」というテーマは、時代を経ることに上書きされ、そのランキングは大きく変わっていく。

 例えば『五冠』シンザン、『皇帝』シンボリルドルフ、そして2000年代を駆け抜けた『日本近代競馬の結晶』ディープインパクト。これらが歴代の「最強馬」としてその時代に君臨したが、今からほぼ50年も前の1970年代に活躍した1頭の持込馬(海外で受胎した牝馬を輸入し、その後に生まれた馬のこと)こそ、『史上最強』だという声をいまだに強く主張する声が生きている。

 8戦8勝の完璧な成績を残し、そのほとんどが2着を大きく引き離した、まさに異次元の強さを見せたマルゼンスキーを推す声である。
 
 話は牧場を営むと同時に、牛の仲買人としても生業をたてていた橋本善吉が軽種馬農協の米国研修旅行に加わるところから始まった。競走馬の世界にも本格的に参入しようという野望を持っていた橋本は、研修のオプションとして設定されていたキーンランドのセリ市にも足を延ばした。あわよくば、いい馬を買い付けたいという望みを抱きながらの参加であった。

 橋本はそこでシル(Shill)という名の繁殖牝馬に魅了された。父は現役時代に15連勝を記録するなどの活躍を見せ、米国で殿堂入りしたバックパサー(Buckpasser)。母のクィル(Quil)もまた14勝を挙げた非凡な馬で、血統的にも非の打ちどころがなかった。

 そうしたプロフィールに加え、見栄えのする馬体を見ただけかなりの高値が予想されたが、それに加えてシルはそのときすでに仔を受胎していた。その父は、世界中を席巻していたノーザンダンサー(Northern Dancer)の直仔で、英クラシックの三冠馬ニジンスキー(Nijinsky)だったのだ。

 現地で知遇を得た調教師、本郷重彦のアドバイスを受けながらシルのセリに加わった橋本だったが、値段はあっという間に上昇して、25万ドルに到達。ここで下りるかどうか迷ったものの、強気に突っ張った末、30万ドル、当時のレートで約9000万円という破格の高額で落札した。

 余談だが、橋本善吉は五輪に夏冬あわせて7度も出場し、メダリストでもある東京オリンピック・パラリンピック競技大会担当大臣なども務めた橋本聖子の父である。ちなみに「聖子」の名は、五輪の「聖火」から付けられたものだとも伝えられている。
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