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【名馬列伝】最強牝馬の称号を手に入れていた女傑ヒシアマゾン。「まるで“ワープ”した」と驚嘆した伝説の鬼脚

THE DIGEST編集部

2024.02.04

 当時(1994年時点)はまだ外国産馬にクラシック競走は開放されてはおらず、ヒシアマゾンを管理するオーナーと中野調教師は、同馬の春季ローテーションでたびたび苦慮を迫られることになるのだが、ヒシアマゾンは与えられた舞台でしっかりと結果を残し続ける。

 初戦の京成杯(GⅢ、中山・芝1600m)こそ2着で取りこぼしたものの、その後のクイーンカップ(GⅢ、東京・芝1600m)、クリスタルカップ(GⅢ、中山・芝1200m)、ニュージーランドトロフィー4歳ステークス(GⅡ、東京・芝1600m)をいずれも圧勝。力の違いを見せつけた。

 なかでも、いまだに語り草となっているのはクリスタルカップでの奇跡的な追い込み勝ちである。

 このレースは、まずスピードに優るタイキウルフがマイペースの逃げに持ち込み、直線半ばにあっても後続に数馬身の差を付けて勝負は決まったかと思われた。芝では初の1200m戦に挑んだヒシアマゾンは鞍上に押されながら中団を追走するのがやっとの有様だったが、直線で外へ持ち出されると持ち前の鬼脚が炸裂。残り100mほどで、まだ先頭のタイキウルフまで4~5馬身ほどの差があったが、これを一気に差し切ると、ゴールでは1馬身差を付けて勝利をものにしてしまったのだ。

 人呼んで「ワープ(瞬間移動)」。アニメ『宇宙戦艦ヤマト』で有名になったこのフレーズが、この日のヒシアマゾンの驚異的な末脚に贈られた。

 このフレーズが使われたのは、英チャンピオンステークス(G1、ニューマーケット・芝10ハロン)の優勝をはじめ、欧州のG1レースを9勝して、世界各国へ遠征しながらタフに活躍したある名牝に贈られて以来のことだった。

 その馬は当時、固い決意でさまざまな政策を断行した英首相マーガレット・サッチャーのニックネームにならって「鉄の女」と呼ばれた牝馬トリプティク。彼女が1987年のジャパンカップ(GⅠ、東京・芝2400m)の前哨戦として出走した富士ステークス(オープン、東京・芝1800m)で、最後方を進みながら残り200mほどで一気に突き抜け、2着に5馬身もの差を付けて完勝した。その時に「まるで『ワープ』したようだ」とファンやマスコミを驚嘆させたときに使われたものだった。評論家の井崎脩五郎をはじめ、今でもこの一戦を「伝説的なレース」と呼ぶ人は少なくない。
 
 その秋、ヒシアマゾンはクイーンステークス(GⅢ、中山・芝2000m)、ローズステークス(GⅡ、阪神・芝2000m)を連勝し、いよいよ念願のGⅠエリザベス女王杯(京都2400m)に臨む。

 オークス(GⅠ、東京・芝2400m)を快勝したチョウカイキャロルや、そのオークスで僅差の3着に入ったアグネスパレードらを差し置いて、ヒシアマゾンは単勝オッズ1.8倍の圧倒的1番人気に推された。

 レースは先に抜け出した2頭を猛追し、3頭がひと塊となってゴールした。スタンドの観客がどよめくなか写真判定の結果が発表され、ヒシアマゾンがチョウカイキャロルをハナ差抑えて勝利を手にしていた。ちなみに、アグネスパレードはさらにクビ差の3着と、こちらも接戦だった。

 こうして彼女は重賞6連勝という快記録を成し遂げて戴冠。名実ともに4歳最強牝馬として君臨した。
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