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競馬

【名馬列伝】「落ちこぼれの星」「奇跡の馬」と称されたヒシミラクル。遅咲きのステイヤーが起こした“三度のミラクル”

三好達彦

2025.03.17

 そしてデビュー16戦目にして初の重賞挑戦となる神戸新聞杯(GⅡ、阪神・芝2000m)で菊花賞への出走権獲得にかける。しかし、ここでは後方から差を詰めるにとどまり、勝ったシンボリクリスエスから1秒3差の6着に終わった。

 菊花賞への出走に黄色信号が灯ったヒシミラクルには、さらに難題があった。クラシック競走へ参戦するには、通常の出走登録とは別の、俗にクラシック登録という手続きが必要なのだが、若駒の時代にはさして大望を寄せられていなかった彼は、その登録をしていなかったのだ。それでもレースに出たければ、追加登録料として200万円という高額な料金を納めなければならない。当時、出走が叶うか否かは抽選になる可能性が高く、追加登録料を支払っても抽選に外れれば200万円を無駄にしてしまう。

 3000mという距離におけるヒシミラクルに大きな可能性を感じていた調教師の佐山は、ここで思い切った行動に出る。オーナーの阿部に相談せず、独断で追加登録料の200万円を立て替えという形で納めてしまったのだ。

 あとは抽選を通るかどうかに賭けるのみ。確率は8分の3と4割弱しかなかったが、これは天の配剤というのだろう。この抽選を見事に突破して、日本ダービー当日に初勝利を挙げた奥手のヒシミラクルは菊花賞へのゲートインを果たしたのである。
 
 ダービー馬タニノギムレットは屈腱炎で引退。同2着で、神戸新聞杯において完敗したシンボリクリスエスは距離適性を考慮して秋の天皇賞(GⅠ)に向かったため、皐月賞(GⅠ)を制したノーリーズンが単勝1番人気に推される、人気が分散するメンバー構成となった。そんななかでも、1000万下を卒業しただけの実績しかないヒシミラクルはオッズ36.6倍の10番人気にとどまったのは仕方ないことだった。

 ここで追加登録料を納めてまで出走にこだわった奥手のステイヤー、ヒシミラクルの血が騒いだ。スタート直後にノーリーズンが落馬するアクシデントが起こるなか、ヒシミラクルは後方の14番手を追走。向正面の半ばから馬群の外を通ってじわじわと位置を押し上げると、第3コーナーの下りでさらに勢いを付けて先団に取り付く。

 そして直線。内から抜け出したメガスターダムを残り200mあたりで捉えると、外から猛追するファストタテヤマをわずかにハナ差抑えて優勝。自らのステイヤー適性を存分に活かし、また大舞台に強いジョッキーとして鳴らした角田晃一の手綱に導かれ、キャリア17戦目にしてついにクラシックホース、GⅠウィナーの称号を得たのだった。
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