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マラソン・駅伝

“中長距離の新エース”田中希実が目指すものとは?飛躍の2020年から五輪を展望する

寺田辰朗

2021.01.23

●1500mで五輪代表になったときは…

 種目毎の実績からもわかるように、田中に国際大会や外国人選手に対する苦手意識はまったくない。

 世界大会を集団で走ると、アフリカ勢特有のペースの上げ下げに対応できないと考え、U20世界陸上では前半から先頭に立って自分のペースで走った。メンタル面が弱い選手が先頭を走ると、力みが出て後半の失速につながることが多いのだが、U20世界陸上の田中はエチオピア選手に追い上げられながらもしっかり逃げ切っている。

 19年のドーハ世界陸上も、シニア参戦1年目でその時点の力は出し切っていた。日本人選手が持ってしまいがちな外国選手への心理的な壁は、最初から持たずに走ってきた。

 それができた一因に田中の家庭環境がある。母親の千洋さんは北海道マラソンに2度優勝するなど、世界的に活躍した市民ランナーだ。3歳でホノルルマラソンに同行し、小学生のときにゴールドコースト(豪州)で優勝したキッズレースが、自身も長距離を走り始めるキッカケだった。そうした小さい頃の経験が、国際大会を普通の感覚で走ることにつながっているのかもしれない。

 10000mでも選考競技会の日本選手権(5月)に出場し、31分25秒00の五輪標準記録を破れば代表入りの可能性がある。だが「5000mの次に代表に近いのは1500m」と田中自身は思っている。この女子1500m、五輪種目になったのが1972年ミュンヘン五輪から。歴史が浅いこともあり、日本人選手が一度も出場したことがない。
 
 東京五輪の競技日程は1500mと5000mが重なり、両種目への出場は難しいのだが、1500mで史上初の代表となることの価値は大きい。田中コーチは1500mで日本新を出した昨年8月も、1500mに優勝した10月の日本選手権も、12月の日本選手権5000mで勝つことを意識したメニューを組んでいた。しかし今年6月の日本選手権は、これまで多種目に挑戦し、練習を行なってきた経験をもとに、1500mに絞ったメニューを組むと田中コーチは明かしている。

 標準記録(4分04秒20)を破れば日本人初の女子1500m代表が誕生し、その過程で培った“スピード持久力”が五輪本番の5000mで威力を発揮する。8位入賞の望みは十分ある。

取材・文●寺田辰朗

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