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「一人一人が何をすれば良いのかを分かってるなと感じる」今永昇太も認める“貧乏軍団”ブルワーズ快進撃の秘密<SLUGGER>

ナガオ勝司

2025.08.26

18年にMVPに輝いたイェリッチ。マーリンズ時代はイチローに師事していたことでも知られる。写真:GETTY IMAGES

 8月21日木曜日(現地)にシカゴで行われたカブス対ブルワーズ戦は、奇妙な試合だった。我らが今永昇太投手が先発し、7番ブライス・テュラングに2点本塁打を打たれたものの、尻上がりに調子を上げて、7回3安打2失点と結果的に好投した。

 ただし、序盤は苦しかった。彼自身が試合後、「スライダーもスプリットも良くなかった」と言ったように、ストライクを取りたいところで取れず、決め球にもならなかった。

「投げる前の感覚も良くなかったし、投げてみての数値も良くなかった。まあ、でも試合が進むにつれて、握りも投げ方も足を上げてからのタイミングもすべて4回から変えて、そしたら自分でも別人になったような数値とか出だしたんで、『ああこれで大丈夫だ』と思いながら投げてました」

「技術の不安がなければ、自信を持ってプレーできる」と彼が言うように、4回以降は腕が振れているように見えたし、躍動感も出てきた。救援投手が打たれた上に、打線の援護もなかったため、6敗目を喫してしまったが、次につながる登板だった。

 ブルワーズ打線は今永に対し、三振した5人と四球で出塁した3人の計8人を除く、17人が打球を前に飛ばしているが、その半数以上の11人が初速95マイル以上の打球=ハードヒットを飛ばしている。そのうちの3人が7番テュラングの2点本塁打(108.2マイル)、1番サル・フレリックの右翼線二塁打(98.0マイル)、2番アイザック・コリンズの右前打(104.0マイル)だった。他の8人は併殺打も含めてすべてアウトだった。

 結果がすべてなので、どんなに強い打球を打とうが、野手の守備範囲に飛んでアウトになればアウト、どんなに弱い打球を打とうが、野手の間に落ちればヒットだ。しかし、強い打球と弱い打球の間には、角度や飛ぶ方向が違えば「長打になるかもしれない」という意味で、潜在的な可能性は大きく違う。

 カブスとのシリーズ初戦に勝った翌日(19日)、ブルワーズはダブルヘッダーに連敗。元ジャイアンツやパドレスのマイナー選手で、独立リーグを経て大学で監督業に転じた経歴を持つパット・マーフィー監督は、敗れてもなお7ゲーム差の試合後、こう続けている。
「我々が良くなかったわけじゃないんだが、いつもやってるようなことが出来なかった。四球を選ぶことも、どっちに転ぶか分からないプレーもなかったし、今日は我々らしくなかった」

 どっちに転ぶか分からないプレー=50/50 Play。

 常日頃から取材しているブルワーズ番記者によると、「50/50 Play」とは、盗塁のようにアウトになるリスクがあるプレーはもちろん、「たとえば、打者がハードヒットを打ち、それが野手の正面を突いてしまうとかも入る、どっちに転ぶか分からないプレーのこと」だという。

 そういうプレーを、マーフィー監督は逐一メモに取りながら試合を観察しているそうだ。

「ここにいる選手たちは、自分がどういう選手であるかをよく知ってるし、自分のプレーがチームにどう影響を与えるかを常に意識しているんだよ」(マーフィー監督)。

 一塁までの全力疾走なんて当たり前。アウトになるリスクを承知で、次の塁を狙う積極的な走塁も当たり前。強い打球を打つことに積極的でありながら、なるべくボール球は打たない。無条件のアウト=三振やフライではなく、ゴロやラインドライブを打って、何かを起こさせる――まるで学生野球のような野球哲学が、いずれもナ・リーグ最高のチーム出塁率.332とBABIP.303、138盗塁(と46盗塁死)、そして同2位の打率.257に表れている。

 件の登板後、今永はこう言っている。

「打者一人一人が何をすれば良いのかを分かってるなと感じるし、本塁打を打てる(4番のクリスチャン・)イェリッチ選手が(初球から)バントしてくるとか、本当に頭を使ってるなと感じるし、そういうことをしてくるチームだなと思うだけでもプレッシャーがかかる。こういうチームをシーズンを通じて相手にするのはタフだなと思う」

 そう感じているのは、彼やカブスのチームメイトだけじゃないだろう。ブルワーズは現地8月22日終了時点で81勝49敗(勝率.623)。文句なく、「メジャー最強軍団」である。ア・リーグ中地区のタイガースが78勝53敗(同.595)と追随しているもの、ナ・リーグでは同率2位がフィリーズが75勝54敗(同.581)だから、独走状態だ。得失点差+160もダントツである。
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主力選手が相次いで流出しながらも戦力を維持できる理由