プロ野球

オリックスの麦谷と杉澤、若手外野手同士の「グローブ交換」に宿るアマチュア時代からの東北の縁【オリ熱コラム2025】

野口航志

2025.09.21

いずれも東北の大学出身という縁がある麦谷(左)と杉澤(右)。プロに入ってから関係が深くなった。写真:野口航志


 ちょっとユニークな光景が見られた。

 ルーキーの麦谷祐介が試合前練習で使用していたグローブに「杉澤 龍」と刺繍が入っていた。よく見ると、試合でもそのまま使っている。一方の杉澤龍が手にしていたのは、「mugitani」と刻まれた黒の麦谷のグローブだった。

 なぜ、こんな"交換"が起きたのか。杉澤に聞いてみると、「本当に何にもないですよ? きっかけは、普通に練習していて、ムギが勝手に(杉澤のグローブを)はめて、『これいいっすね!』って。じゃあ『お前(麦谷)の貸して』って言って、そのままです」

 麦谷も続ける。

「あっち(杉澤)もいいって言って、変えただけです。ちょっとしっくり来たんで、へーいいかもと思って。ちょっと使ってみようと思って」

 2人のグローブはともにミズノ製。同じメーカーであることも、違和感なく使える理由の一つなのかもしれない。ネイビーと赤にイエローのアクセントが入った杉澤のグローブは、「ちょっとカラーリングとか、おしゃれなものを使ってみたい」と普段は黒色を使う麦谷の心をつかんだ。

 一見すれば単なるグローブ交換。しかし、2人には学生時代からの縁がある。麦谷は仙台出身、杉澤は秋田出身。大学時代は杉澤は東北福祉大、麦谷は富士大とリーグこそ違ったが、東北の同世代として練習試合などで交流があった。

「大学じゃ練習試合とかして、仲良くして。バットとかもらったのを覚えてますね」と麦谷。当時は2学年上の杉澤が先輩にあたり、4年春には仙台六大学リーグ史上5人目の三冠王とMVPを受賞している。

「リーグは違うけどめっちゃ打つし。三冠だし。すごいなって印象でした」と、後輩としてのリスペクトを口にする。

 現在3年目の杉澤は、昨オフに打撃改造と肉体強化に取り組み、ストレートに打ち負けない身体づくりを進めてきた。その成果はまず二軍戦で表れ、4試合連続ホームランを放ってアピール。そこから6月に今季初昇格を勝ち取り、迎えた一軍初打席でいきなりタイムリーを放つと、自身初のヒーローインタビューに立ち、「レギュラー取ります!」と力強く宣言した。春先は故障、8月にはデッドボールによる影響で離脱もあったが、復帰後は少しずつ結果を重ね、来季こそ開幕からの一軍定着を狙う。
 一方、麦谷は今年のドラフト1位ルーキー。走攻守そろった期待株として、すでに一軍で存在感を示している。勝負どころでの果敢な走塁はチームを何度も救い、8月26日のロッテ戦ではプロ初ホームランを放った。

「先頭バッターだったので、とにかく塁に出てつなごうという意識でした。盗塁を失敗していましたし、何とかしたかったので、とにかく追いつくことができて良かったです!(打った瞬間)いったと思いました」。まだ1年目で確実性はこれからだが、将来の中軸候補として大きな期待を背負う。

 お互いの印象を尋ねると、杉澤は「切り替えが上手。すっごいポジティブ。僕とは真逆ですね」と評し、麦谷は「優しいですね。(学生時代は)深く関わったことはなかったですけど、オリックスに来てしゃべったりすることが多くなったんですけど。何て言うんすかね、意外に優しいんだなって。大学の時はちょっと怖いイメージがあったんですけど」と笑った。

 グローブ交換という些細な出来事の裏には、東北からプロの舞台へと駆け上がってきた先輩後輩の絆がある。もちろん2人はまだ発展途上。いずれも今シーズン、守備でミスを犯し、悔しい思いをしたこともある。それで、果敢に攻めるプレーを選び、そこから学ぶことができるのも大きな財産だ。

 経験を重ねることで、失敗すら未来の力に変えていくだろう。2人が揃ってオリックスの外野を支える、近いその日を楽しみに待ちたい。

~こぼれ話~
麦谷はすでに新しい自分用の黒のグローブを注文しているとのこと。杉澤モデルを借りてプレーする姿が見られるのは、どうやら「今だけ」かもしれない。

文:写真●野口航志

著者プロフィール
ノグチコウジ。 1984年、神戸市生まれ。岡山大学卒業。記者とカメラマンの『二刀流』。プロ野球を中心に、社会人野球やプロレス・ボクシングなどの取材や撮影に携わる。ブレーブス時代からのオリックスファン。

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