何度目の炎上か――。
ニューヨーク・メッツの右腕、ジェイコブ・デグロムは本拠地で行われたマイアミ・マーリンズ戦に先発すると、7回2安打1失点14奪三振という圧巻のピッチングを披露。4対1の3点リードの状態で後続に託したが、8回に救援陣が一挙3点を失い、勝利投手の権利が滑り落ちていった。デグロムが7回1失点以下に抑えながら白星が付かなかったのは、過去3年間でこの日は14回目という"不運"ぶりである。
デグロムのことを知らない方のために説明すると、簡単に言えば「球界最高の本格派投手」である。4シームの平均球速は過去2年とも96マイル超(154.5キロ)、今季は98マイル(157.7キロ)台に突入し、そこに抜群の切れ味を誇るスライダー、チェンジアップ、カーブを同じ軌道から投げ分けることで打者を牛耳る。2018年は防御率1.70、昨年255奪三振でタイトルを獲得し、2年連続でサイ・ヤング賞に輝いている。
もっとも、18~19年の勝敗は21勝17敗と、たった4つしか勝ち越していない。勝ち星はそれぞれ10勝、11勝という成績でも、内容が評価されて投手最高の栄誉に選ばれているわけだが、彼がこれほどまでに"勝てない"のには、大きく2つの理由が考えられる。
一つは「無援護」だ。18年のデグロムの援護点は2.9点、昨年が3.6点で、ともにメジャーワースト級の少なさだった。メッツ打線はそれぞれ平均4.17点、4.88点を記録してきたのだが、デグロムが投げている時にはなぜか助けてあげられていないのだ。
2018年4月21日から6月18日にかけてデグロムは11先発中9回も、7イニング以上を投げて3点以内に抑えた(他の2回は故障で4回以内に降板)。成績は防御率0.90、被打率.196、奪三振率11.52と圧巻の数字が並んでいる。しかし、この間は3勝2敗と、こちらも逆の意味で驚きの数字だった。この9先発でデグロム登板中に味方打線の援護は0点→4点→3点→1点→2点→1点→1点→0点→6点。この年、デグロムは味方の得点1点以下の状況で歴代最多となる2438球を投げていたとのデータがあり、相手打線だけではなく、"味方との戦い"も強いられていたというわけだ。
そしてデグロムの場合は、打線に加えて「救援陣」も"敵"である。26日の試合もブルペンが勝ちを消したように、どういうわけかデグロム登板時のリリーフは大炎上してしまうのだ。デグロム降板後の救援防御率は何と驚異の6.63(!)。デグロム以外の試合では4.65なのだから、とにかくデグロム戦で打たれている。もっとも、この原因は「デグロム自身」にあるかもしれない。
ブルペン運用において一つ大事なことは、「相対的劣化を防ぐ」ことが挙げられる。簡単に言えば、同じタイプの投手で継投していくと、相手打線がボールに慣れてしまい、リリーフ投手が捕まりやすくなる現象である。投手の左右、持ち球がなるべくダブらないようにすることも、実は大事な起用法だ。
相対的劣化による継投失敗の例では、2015年の第1回プレミア12準決勝・韓国戦が分かりやすい。この試合に先発した大谷翔平は最速160キロの速球、スライダー、フォークを武器に韓国打線を7回1安打無失点11奪三振と蹂躙した。しかし、彼の後を継いだ則本昂大は2イニング目の9回に3連打、死球を与えて降板すると、松井裕樹は押し出し四球、さらに増井浩俊がタイムリーを浴びて日本は9回に逆転負けを喫している。
この時、韓国の打者は「大谷のスピードに慣れていたから、対応できた」という旨のコメントを残している。左の松井は別にして、則本と増井は大谷と同じ右投手。両者とも快速球の持ち主ではあるが、スピードは大谷に劣り、さらに決め球もまったく同じとあって、"大谷の下位互換"だったことが打たれた要因の一つであった。
そしてこれは、デグロムにも同じことが言える。デグロムの配球は速球、スライダー、カーブ、チェンジアップと非常にオーソドックスだ。しかし、この王道の球種がすべて球界トップレベルの威力を誇る。リリーフ投手を含めてもその球速は最速レベルであり、"デグロム慣れ"した後では、彼の後を継ぐ投手の球威はチープに見えてしまうも無理はないのかもしれない。
デグロムは昨年、史上11人目となる2年連続サイ・ヤング賞に輝いた。今年もここまで2勝ながら防御率1.80、奪三振率12.60、リーグ1位のFIP1.70と素晴らしい成績を残しており、3人目の3年連続受賞も十分狙える位置にいる。サイ・ヤング賞を2回以上獲得した選手で殿堂入りしていないのは、現役を除けば薬物疑惑のロジャー・クレメンス(7回)だけである。
現在32歳、通算68勝のデグロムが今後どれだけ勝利数を伸ばせるかは分からないが、殿堂入り投票において大きな議論を呼ぶ存在になることは間違いないだろう。
文●新井裕貴(SLUGGER編集部)
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ニューヨーク・メッツの右腕、ジェイコブ・デグロムは本拠地で行われたマイアミ・マーリンズ戦に先発すると、7回2安打1失点14奪三振という圧巻のピッチングを披露。4対1の3点リードの状態で後続に託したが、8回に救援陣が一挙3点を失い、勝利投手の権利が滑り落ちていった。デグロムが7回1失点以下に抑えながら白星が付かなかったのは、過去3年間でこの日は14回目という"不運"ぶりである。
デグロムのことを知らない方のために説明すると、簡単に言えば「球界最高の本格派投手」である。4シームの平均球速は過去2年とも96マイル超(154.5キロ)、今季は98マイル(157.7キロ)台に突入し、そこに抜群の切れ味を誇るスライダー、チェンジアップ、カーブを同じ軌道から投げ分けることで打者を牛耳る。2018年は防御率1.70、昨年255奪三振でタイトルを獲得し、2年連続でサイ・ヤング賞に輝いている。
もっとも、18~19年の勝敗は21勝17敗と、たった4つしか勝ち越していない。勝ち星はそれぞれ10勝、11勝という成績でも、内容が評価されて投手最高の栄誉に選ばれているわけだが、彼がこれほどまでに"勝てない"のには、大きく2つの理由が考えられる。
一つは「無援護」だ。18年のデグロムの援護点は2.9点、昨年が3.6点で、ともにメジャーワースト級の少なさだった。メッツ打線はそれぞれ平均4.17点、4.88点を記録してきたのだが、デグロムが投げている時にはなぜか助けてあげられていないのだ。
2018年4月21日から6月18日にかけてデグロムは11先発中9回も、7イニング以上を投げて3点以内に抑えた(他の2回は故障で4回以内に降板)。成績は防御率0.90、被打率.196、奪三振率11.52と圧巻の数字が並んでいる。しかし、この間は3勝2敗と、こちらも逆の意味で驚きの数字だった。この9先発でデグロム登板中に味方打線の援護は0点→4点→3点→1点→2点→1点→1点→0点→6点。この年、デグロムは味方の得点1点以下の状況で歴代最多となる2438球を投げていたとのデータがあり、相手打線だけではなく、"味方との戦い"も強いられていたというわけだ。
そしてデグロムの場合は、打線に加えて「救援陣」も"敵"である。26日の試合もブルペンが勝ちを消したように、どういうわけかデグロム登板時のリリーフは大炎上してしまうのだ。デグロム降板後の救援防御率は何と驚異の6.63(!)。デグロム以外の試合では4.65なのだから、とにかくデグロム戦で打たれている。もっとも、この原因は「デグロム自身」にあるかもしれない。
ブルペン運用において一つ大事なことは、「相対的劣化を防ぐ」ことが挙げられる。簡単に言えば、同じタイプの投手で継投していくと、相手打線がボールに慣れてしまい、リリーフ投手が捕まりやすくなる現象である。投手の左右、持ち球がなるべくダブらないようにすることも、実は大事な起用法だ。
相対的劣化による継投失敗の例では、2015年の第1回プレミア12準決勝・韓国戦が分かりやすい。この試合に先発した大谷翔平は最速160キロの速球、スライダー、フォークを武器に韓国打線を7回1安打無失点11奪三振と蹂躙した。しかし、彼の後を継いだ則本昂大は2イニング目の9回に3連打、死球を与えて降板すると、松井裕樹は押し出し四球、さらに増井浩俊がタイムリーを浴びて日本は9回に逆転負けを喫している。
この時、韓国の打者は「大谷のスピードに慣れていたから、対応できた」という旨のコメントを残している。左の松井は別にして、則本と増井は大谷と同じ右投手。両者とも快速球の持ち主ではあるが、スピードは大谷に劣り、さらに決め球もまったく同じとあって、"大谷の下位互換"だったことが打たれた要因の一つであった。
そしてこれは、デグロムにも同じことが言える。デグロムの配球は速球、スライダー、カーブ、チェンジアップと非常にオーソドックスだ。しかし、この王道の球種がすべて球界トップレベルの威力を誇る。リリーフ投手を含めてもその球速は最速レベルであり、"デグロム慣れ"した後では、彼の後を継ぐ投手の球威はチープに見えてしまうも無理はないのかもしれない。
デグロムは昨年、史上11人目となる2年連続サイ・ヤング賞に輝いた。今年もここまで2勝ながら防御率1.80、奪三振率12.60、リーグ1位のFIP1.70と素晴らしい成績を残しており、3人目の3年連続受賞も十分狙える位置にいる。サイ・ヤング賞を2回以上獲得した選手で殿堂入りしていないのは、現役を除けば薬物疑惑のロジャー・クレメンス(7回)だけである。
現在32歳、通算68勝のデグロムが今後どれだけ勝利数を伸ばせるかは分からないが、殿堂入り投票において大きな議論を呼ぶ存在になることは間違いないだろう。
文●新井裕貴(SLUGGER編集部)
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