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MLBのポストシーズンから姿を消した“偉大なエース”たち。フロントではなく選手が再び主役になる日は来るのか<SLUGGER>

久保田市郎(SLUGGER編集長)

2021.11.05

ワールドシリーズ第6戦で快投を披露したフリードだが、その彼もわずか74球でマウンドを降りた。(C)Getty Images

ワールドシリーズ第6戦で快投を披露したフリードだが、その彼もわずか74球でマウンドを降りた。(C)Getty Images

 メジャーリーグのポストシーズンは常に偉大なエースとともにあった――こう書くと少し大げさだろうか。だが実際、ワールドチャンピオンを懸けた10月の戦いでは、毎年のように好投手が鮮烈な印象を残し続けてきた。

 目を閉じれば、偉大なエースたちの顔が次々と思い浮かぶ。ランディ・ジョンソン&カート・シリング(01年ダイヤモンドバックス)、ジョシュ・ベケット(03年マーリンズ、07年レッドソックス)コール・ハメルズ(08年フィリーズ)、クリフ・リー(09年フィリーズ)、マディソン・バムガーナー(14年ジャイアンツ)、ジャスティン・バーランダー(17年アストロズ)、ゲリット・コール(19年アストロズ)、スティーブン・ストラスバーグ(19年ナショナルズ)……。2000年代以降に限定してもこれだけの顔ぶれが並ぶ。MLBファンなら誰もが、彼らの雄姿を脳裏に焼き付けているはずだ。

 だが、今年のポストシーズンはそんな“偉大なエース”が姿を消してしまった。印象度だけで語っているわけではない。ポストシーズン全37試合中、先発投手が7イニング以上投げたのは延べ4人だけ。ちなみに、ジョンソンとシリングのWエースがフル回転したことで有名な01年のポストシーズンでは、実に延べ30人が7イニング以上投げ、完投も5回記録されている。
 
 そこまでさかのぼらなくても、ストラスバーグとコールというドラフト全体1位指名のエリート本格派右腕が躍動した19年も、延べ17人の先発投手が7イニング以上投げていた。たった2年の間に、一体何が起きたのだろうか?

 日本のプロ野球中継を見ていると、アナウンサーや解説者が「メジャーでは100球を目処に交代させますが……」と話しているのを耳にする。だが、現実はさらに加速している。今や100球どころではなく、相手打線が3巡目に入ったタイミングが最も分かりやすい「先発投手の代え時」となっている。同じ打者との対戦が増えるごとに被打率が上昇して空振り率は低下するなど、投手にとってリスクが高まることがデータ上、明らかになっているからだ。

 今年のポストシーズンで「エースが消えてしまった」のは、絶好調の投手がいなかったのもさることながら、この「3巡目理論」が球界全体に広まったことが最も大きな要因だ。

 オープナーや極端な守備シフト、そして「3巡目理論」の普及。こうした近年の潮流は、「フロント主導の野球」と言い換えることができる。いずれも、現場ではなくデータ分析から生み出された「勝利への最適解」だ。
 
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