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「野球やってるなぁって感じが凄く楽しい」メキシコに近い田舎町で再起を期す安打製造機【秋山翔吾“最後の挑戦”:前編】<SLUGGER>

ナガオ勝司

2022.05.26

パドレスとマイナー契約を交わした秋山。合流直後に本塁打を放つなど、本来の打撃を取り戻しつつある。(写真)ナガオ勝司

 灼けつくような暑さを、乾いた空気が和らげていた――。

 摂氏35度前後の高温なのに、汗がほとんど出なかった。テキサス州最西端の町エルパソ。メキシコ国境までほんの数ブロックというダウンタウンの片隅に、サンディエゴ・パドレス傘下のAAA級エルパソ・チワワズの本拠地サウスウェスト・ユニバーシティ・パークはあった。

 秋山翔吾がフィールドに姿を現したのは、ナイトゲームのためにグラウンドクルーがフィールドを整備している午後の早い時間だった。サッカーチームとシェアしているせいだろう、他の球場に比べるとかなり短く刈られた外野の芝の上で、彼はジョギングを始め、そして短いダッシュやストレッチへと移行していく。

 変わってないな、と思う。

 シンシナティ・レッズ=メジャーリーグの華やかな舞台に立っていた時も、マイナーリーグの田舎町の球場にいる時も、彼はいつも自分のやるべきことを心得て準備を進めてきた。
 
「勝負を懸けなきゃならないなんてのは、当たり前なんですけど」とサングラス姿の彼は言う。「緊張感はあっても、まだそこまで張り詰めてる感じじゃないんです」

 かと言ってもちろん、緩んでいるわけではない。メジャー復帰を目指しながらも、自分の状態を冷静に判断している「もう一人の秋山」がいるだけのことだ。

▼事実その1
4月5日にレッズから自由契約になって以来、約1か月間、まったく実戦でプレーしていない。

▼事実その2
手続き上の問題で、エルパソ入りしてから10日間近くは契約書にサインできなかった。

▼事実その3
実戦形式の練習などもできないまま、「待ったなし」で公式戦に出ることになった。

 レッズから自由契約になって以来の約40日間、ピッチャーが投げる球も見ていなければ、外野守備もしていない。マイナーリーグでの開幕を普通に迎えた選手たちとコンディションがまったく違って、当然である。

「そういうのは皆、ある程度は分かってくれていたから、『試合に出るのは水曜(5月11日)からでいいよ』って言われてたんです。そしたら、火曜日になって、センターの選手が怪我をして試合に出れないかもしれないから、その時は出てほしいと言われました。結局、それはなくなったんですけど、そこまで気を遣ってくれてるから、最初の試合なんかは『何イニング出るのかな?』とか思ってたら、いきなり延長戦でフル出場でしたし、試合が終わった時には身体中がパンパンに張っていました」
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容赦なく「結果のみ」を求められるマイナーリーグ