高校野球

指導者に望みたい「自ら考える選手」の輩出。ドロップアウトが絶えないアマチュア球界の現実と課題

西尾典文

2022.06.02

甲子園を筆頭にメジャー大会で活躍する逸材が数多く登場しているアマチュア野球界。しかし、その一方で表舞台に登場することなく消えていっている選手も少なくない。写真:塚本凜平

 昨今の高校野球界と大学野球界は新入生の活躍が話題となっている。だが、その一方で残念なニュースも飛び込んできた。神奈川を代表する強豪校である横浜と東海大相模で相次いで将来が有望視されていた選手が野球部を退部していたと分かったのだ。

 この件に限らず、これまでも期待されて入学しながら高校、大学の野球部を途中で退部するケースは、実は少なくない。現在プロで活躍している伊藤大海(日本ハム)や河村説人(ロッテ)などは大学1年時に退学し、異なる大学に入りなおした経験を持っている。この2人は幸いにも再入学した先で成長を遂げてプロの道に進んだが、そのまま退学後にドロップアウトしてしまう選手も多いのが現実である。

 ではこのような事態が起こる原因はどこにあるのだろうか。ひとつの大きい理由として挙げられるのが、選手が学校について十分な理解をしないまま進学していることが考えられる。以前に比べると選手同士の縦と横のつながりも強くなり、SNSなどあらゆる"ソース"を通して得られる情報は格段に増えてはいる。だが、それらを進路に生かしているケースは決して多いとは言えない。
 
 筆者は高校生、大学生に取材する際にチームを選んだ理由を選手に聞くことがある。すると彼らは、そのチームからの誘いがあったからか、もしくは所属していたチームの指導者に勧められたからという理由を口にする。ある地方の高校から早稲田大学へ進学し、その後にプロ入りした選手(既に引退)が、以下のように話していたことを今でも鮮明に覚えている。

「高校の監督からある日突然『早稲田に(練習参加に)行くぞ』と言われたんですけど、『何しに行くんですか?』って思ったんですよね。早稲田は勉強ができる人が行く大学だと思っていたので、野球が強いことも全く知りませんでした」

 これはかなり極端な例ではあるが、自分が行く先のチームについてよく知らないまま進学する選手は多い。そのチームへの進学を自ら希望していたという選手も当然いるが、その理由を深く掘り下げてみても甲子園など全国大会での戦いぶりを見てなど、いわゆるチームやユニホームへの"憧れ"が理由となっているのが大半。実際にそのチームについて自ら詳しく調べて考えている選手は稀である。自分が思い描いていたチームと現実のギャップを感じて退部を選んでしまう選手も多い。
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『野球界(スポーツ界)の常識は一般社会の非常識』という言葉もあるように