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藤浪晋太郎のMLB移籍には「ロマン」がある。アメリカでの開花を予感させる理屈抜きの期待感<SLUGGER>

ナガオ勝司

2022.12.07

素質の高さは誰もが認めるところだが、制球難に苦しんでいる藤浪。MLBでその才能が開花するだろうか。写真:THE DIGEST写真部

 藤浪晋太郎のメジャーリーグ(MLB)移籍には、他の選手とは少し違った意味でのドキドキがある。古い言葉を使えば、「ロマン」と言ってもいいかもしれない。

 なぜなら、日本プロ野球(NPB)、いや、阪神タイガースですら圧倒的なエースというわけでもないだろうが、潜在能力が高い藤浪には「MLBで開花するかも?」という理屈抜きの期待感があるからだ。

 160キロ近い速球と140キロ台のフォークボールを持ち球としている藤浪。それだけでも十分なのだが、カットボールやスライダーなどの他の持ち球が、科学的なデータや統計学に基づいて配球を選択することが多い近年のMLBでより生きるのではないか? などと、「あまり根拠のない楽観論」につながってしまうのである。

 それでも期待してしまうのは、彼が阪神での最初の3年、とりわけ2015年に7完投を含む14勝を挙げ、199回で221三振を奪った「無双」状態だった事実が大きい。とりわけ、日本よりも遥かに国土の広いアメリカを拠点としていると、「海の向こうの未完の大器」に、「普段は見ない他地区の元エース」に似たような感情を抱いてしまうのだ。
 
 たとえば、デビュー2年目の08年から2年連続サイヤング賞を獲ったティム・リンスカムは、28歳になった6年目以降、リーグ最多敗戦や最多暴投を記録するなどして黄金期ジャイアンツの主役の座から徐々に後退していった。それでも彼は16年に32歳で引退するまで、「いつか、完全復活するかも?」という期待を持たせ続けた。

 サイ・ヤング賞投票の常連だったリンスカムと、沢村賞を獲ったことのない藤浪を比較するのはナンセンスだろうが、若かりし頃に成功したピッチャーの復活を願う気持ちこそ、ベースボールのロマンティックな部分ではないかと思う。

 藤浪のその後の制球難や怪我による不調は、日本の新聞記事を読んで何となくは知っている。それでも、「Change of scenery(環境の変化)がプラスになるのではないか?」とは、ずっと言われていた。前出の「あまり根拠のない楽観論」は、昨季のWHIP1.19が、デビュー年の13年以来ベストの数字だったために、「プラスになる予兆」として、さらに膨れ上がるのである。

 もちろん、藤浪がこれから直面する「現実」は、そんな「ロマン」をぶち壊してしまう可能性がある。
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今、藤浪に求められる最も重要なことは?