侍ジャパン

「何となしに投げることが1球もなかった」WBC代表合宿初日からダルビッシュが示した「メジャーリーガーの価値」<SLUGGER>

氏原英明

2023.02.18

宮崎合宿初日から合流したダルビッシュ。投球練習前には、独自の調整も行なっていたようだ。写真:梅月智史

 たまたま立ち寄った宮崎市内のカフェの店主は「全然ですよ」と言った。

 2013年、第3回WBCの直前合宿の時の話だ。筆者は初めてのWBC取材になかなかの侍ジャパン人気を感じていたのだが、カフェの店主はかぶりを振った。

「イチローがいた時はこんなもんじゃなかった。人の数が全然違います。メジャーリーガーの存在って大きいんですね」

 当時は愛想笑いすることしかできなかったが、6年ぶりの開催となる第5回WBCの直前合宿の初日は盛況だった。球場に詰めかけたファンの数は1万8000人を超えるほどで、カフェの店主の言っていたことが"あの男"の参戦で現実になったようだった。

「緊張はめっちゃしましたけど、超楽しかったです。1球1球に対していろんな反省をしていて、何となしに投げることが1球もなかった。そういうところは意識を高くすることが必要なんだなと、ダルビッシュ(有)さんを見ていて感じました」

 そう言ったのは、最年少で代表入りを果たした高橋宏斗(中日)だった。

 ダルビッシュが代表合宿に参加することの最大の意義は、周りの選手たちがメジャーリーグのスーパースターの息づかいを間近で感じることだろう。普段所属しているチームとはまた別の学ぶ機会があり、その一つひとつが財産になる。
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 ダルビッシュは他の投手たちにそれぞれのルーティンを聞くことも多いという。その受け答えの時間だけでも、非常に大きな意味を持つだろう。

 外から見ている側としても、ダルビッシュの姿勢からは学ぶことが多い。長年積み重ねてきたトレーニングがもたらした肉体の厚みは、ユニフォームを着ていても確認できる。

 一方、日本の「当たり前」とはまた違ったルーティンも非常に興味深かった。

 最初の練習から違いが見られた。全体アップを終えて、投手陣はブルペンに集まって挨拶をしたが、その後、ダルビッシュはその輪からいったん離れた。

「その日その日で体調が違うので、それに対してしっかりアプローチしていくっていうのが自分の調整方法というか。今日は身体の状態的にもちょっと長めにやらなきゃいけないことがあると思ったので、吉井(理人投手コーチ)さんやチームの人にいって個人の(練習を)ことをさせていただきました」

 ダルビッシュは全体練習後にはそう説明した。実際、他の投手たちの下へ帰ってきた時には、一汗かいてきたような表情だった。

 そこからキャッチボールと、ちょっとした遠投。変化球を混ぜながら投げることで状態を確認しているようだった。

 おそらく、その様子を高橋宏はしっかり見ていたのだろう。キャッチボールの中に真剣味がある。ブルペンでの投球練習だけが投手の「投げる」ではないのである。
 
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