侍ジャパン

大谷翔平が披露した“見たことのない配球” と“スライダーの多彩さ”。捕手・甲斐拓也の胸にも刻まれた「学びの時間」【WBC】

氏原英明

2023.03.10

大谷は中国打線を相手に4回を無失点、被安打1に抑えた。写真:鈴木颯太朗

 こんな配球の攻め方があるのか。

 バックネット裏、捕手の延長線上で試合を観戦しながら、二刀流右腕の快投にただただ感心するしかなかった。4回を投げて1安打無失点5奪三振。これが野球とベースボールの違いなのか。

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 この日先発した大谷翔平のピッチングは打者を討ち取っていくための新境地を見た "学び"の4イニングだった。

「(体に)当たるかと思いました。壁に跳ね返って来たかのように曲がってきて、スゴイ球でした。2回くらいあったんで、すごいなと思いました」

 そう語ったのは中国代表の3番を打った、元ソフトバンクの真砂勇介だった。
 真砂は2度にわたって、インコースに投じられたスライダーに、下半身を引かざるを得なかった。ストレートに合わせていただけに、虚を突く変化に全く対応できなかった。

 何より驚くのはスライダーを徹底してインコースをついてきたことだった。いわゆる、"インスラ"である。

 インコースのスライダーを投げるのは多少のリスクがある。投げミスをしてしまえば、死球になってしまうし、甘く入れば長打を食らう危険性もある。しかし、大谷は初回から、そこへどんどんと投げ込んでいったのだ。

 この日はスタメンマスクの捕手・甲斐拓也が話す。

「プランというよりも、実戦で組むのは初めてだった。お互いを知らなければいけないので、その日のいい球を選択していくという形で進めました。今日はスライダーが安定していたんですけど、あまり受けたことのないような軌道のスライダーでした」

 真砂が壁に当たって跳ね返ってくるようなスライダーはその一つで、腰を引くくらいのところから曲がってきてストライクを取られるのである。

 そして、大谷が凄まじかったのは、このスライダーが1球種だけではなかったことだ。甲斐によると、縦、横のものと、浮き上がってから落ちてくるものと3種類あるのだという。

 それぞれ、持ち味や役割が異なった。真砂がのけぞったスライダーは見逃しのストライク、あるいはファウルを誘発するものだが、残りの二つにもそれぞれカウント球、決め球など多彩に使い分けができるのだ。

 曲がり幅も違えば、変化の方向、そして、スピードも違う。それを何よりインコースに投じてくるのである。打者がアジャストしていくには容易な球ではない。

 甲斐はいう。

「球が強いのはもちろんなんですけど、スライダーは落ちてくるというよりも、ちょっとふけてくるようなスライダーなんです。右バッターはみんな足を引くようなことが多かったし、あの曲がりっていうのはなかなかない。それだけのボールだと思いますし、横に曲がるもの、ホップしてくるものもあるので、バッターは難しかったと思います」
 
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投手をリードしたというより導いてもらったと話す甲斐