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プロ野球

甲子園が中止になった2020年夏の絶望を糧に―遅れてきた怪物たちの世代が今、熱い<SLUGGER>

氏原英明

2023.06.19

WBC侍ジャパンで活躍した髙橋(中央)に開幕から快進撃を続ける山下(右)らの他、青山学院大の強肩強打の主砲・佐々木(右)など、02年生まれの世代がプロアマともに躍動中だ。写真:産経新聞社(山下)、山手琢也(佐々木)、THE DIGEST写真部(髙橋)

WBC侍ジャパンで活躍した髙橋(中央)に開幕から快進撃を続ける山下(右)らの他、青山学院大の強肩強打の主砲・佐々木(右)など、02年生まれの世代がプロアマともに躍動中だ。写真:産経新聞社(山下)、山手琢也(佐々木)、THE DIGEST写真部(髙橋)

 18年ぶり5度目の全日本大学選手権優勝を果たした青山学院大の安藤寧則監督は、答えに窮した。

「う~ん、どうなんでしょうね。県岐阜商のグラウンドで初めて見た時に熱は感じたので、その時からすごいなと思って......」

 今大会でMVP級とも言える活躍を見せた3年生スラッガー佐々木泰について尋ねた時のことだ。

「(甲子園などの)大会に出れず、苦しい思いとかがある中で、大学でやるんだっていう思いはより強かったかもしれないですね」

 高校野球を20年以上にわたって取材し、また大学・プロなどの全カテゴリーも見る中で、ふと気づいたことがあった。何不自由なく野球ができたコロナ前の世代と、それ以後とでは分けてみる必要があるのではないかと。

 こと育成において、伸び率は計り知れないところがある。コロナ禍で甲子園がなかった世代たちは特にだ。

 今年は、高卒でプロに入って3年目の選手や大学3年生の世代の活躍が著しい。

 その代表格と言えるのが中日の右腕・髙橋宏斗だ。

 3月にWBCの世界一メンバーとなった髙橋は、コロナ禍で甲子園が消滅した世代の代表としての意識を強く持つ選手の一人で、「僕が活躍することで、同じ悔しい思いをした仲間たちを勇気づけられればと思ってますね」と語る。
 
 髙橋以外にも、この世代には逸材が多い。今季、開幕投手として一軍デビューを果たし、その後も好投を続けるオリックスの剛球右腕・山下舜平太、山本由伸(オリックス)と瓜二つの投球フォームで話題を集める内星龍(楽天)、支配下登録2年目にしてセンターのレギュラーを手中に収めつつある長谷川信哉(西武)などだ。

 そこに大学3年生の佐々木や、準優勝した明治大の宗山塁、2回戦で東京ドームの右翼スタンドにぶち込んだ大商大の渡部聖弥が加わる。

 彼らはみな、2020年に最後の夏を経験できなかった選手たちだ。

「あの時はもうつらいっていうか、本当に悔しい気持ちだったんですけど、目標がまだまだ上の目標にあったので、くじげずに頑張ってこれたなと思います」。

 佐々木は当時の経験をそう振り返っている。

 もっとも、彼ら「甲子園消滅世代」は、悔しさを持っているから頭角を表したと言いたいのではない。甲子園がなく、試合ができず、練習もままならなった選手たちだけに、成長の時期がやや遅れてきたのではないかと見ているのだ。

 山下、内、長谷川の3人は、20年8月に甲子園などで開催された「プロ志望高校生合同練習会」(トライアウトのようなもの)の参加者でもある。

 ドラフト1位指名された山下は正当に評価された方だが、内は6位、長谷川は育成2位。“遅れてきた怪物”と呼べるかもしれない。

「高校の練習ってどこもしんどいじゃないっすか。どうして抜きたくなるんですけど、甲子園がないのに、それでも最後まで練習をやりきれたのは自信にはなりました」

 西武のホープ長谷川は苦しい日々のことをそう語っている。

 甲子園中止は残念だったが、いつまでも下を向いてはいられないと気持ちを切り替えた。プロという目標に向けて練習を再開し、その強度も下げなかったと、長谷川は話す。
 
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