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プロ野球

甲子園が中止になった2020年夏の絶望を糧に―遅れてきた怪物たちの世代が今、熱い<SLUGGER>

氏原英明

2023.06.19

 長谷川のプレーぶりを見ていて思うのは、果たして彼が高校時代に正当な評価を受けていたのかということだ。育成出身の選手はどちらかというと一芸に秀でた選手が多い。だが、長谷川はすべての能力がバランスよく高い。足は速いし、守備範囲は広く、スローイングも安定している。バッティングにも天性の柔らかさがある。敦賀気比高出身らしく、自己主張の強さも持ち味である。

 長谷川に尋ねてみた。

 甲子園があったら、もっと人生は変わっていたんじゃないかと。

「プラマイゼロじゃないですかね。甲子園に出ていれば、それはそれで打てなかったら評価は下がる。16打席ノーヒットやったら指名はされなかっただろうし。甲子園の練習会では自分の持ち味は発揮できたなって思ったし。育成指名でも、僕は嬉しかった。高校の練習がしんどい中で上手くなりたいと思って最後までやれたし、それは今にもつながっていると思います」

 部活停止による練習量の低下、試合経験の減少、甲子園の中止。

 それらを体験した時、長谷川ら当時の選手たちは絶望もしただろう。だが、それらをプラスに捉えられるようになったのは、その後の生活が充実しているからだ。「コロナのせいでうまくいかなくなった」と決めつけてあきらめるか、そこから何を得るかで人生は大きく変わる。

 プロでも大学でも、甲子園中止世代が活躍しているのは偶然ではない。彼らはみな絶望から這い上がり、その才能を開花させているのだ。
 大学3年生にして「今すぐプロのショートで活躍できる」とまで評価されている明治大の宗山は、こんな話をしている。

「甲子園は大きな目標の一つだったんで、それがなくなって改めて気づくことがありました。個々に使う時間が増えて、考える時間がありました。その時に自分の技術を見つめ直しましたし、その時間はすごい大切でした。改めて感じるのは、普段、考えてやることがすごく大事ということ。何となくやっている選手と練習量が同じでも、成長の速さが異なると思う。意識の違い、考え方の違いで、同じ練習でもすごく上手くなれると思います」

 遅れてきた怪物たち。そう言っては大袈裟かもしれないが、すでにプロでもトップクラスにいる髙橋を中心としたこの世代の選手を見るたびに、これまでにない新たな選手の成長曲線が生まれているような気がしてならない。

「甲子園が中止になったことを、僕は悪いことだと思っていない」

 髙橋はそう言っている。この世代が球界を席巻する日は、そう遠くないかもしれない。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『SLUGGER』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
 

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