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「先が見えなくなって不安になることもある」もがき苦しみながら、鈴木誠也は1ミリでも前に進もうとしている<SLUGGER>

ナガオ勝司

2023.08.12

9日のメッツ戦では3安打1本塁打の活躍。レギュラー奪回へ向け、今後も結果を残していきたい。(C)Getty Images

 カブスの鈴木誠也外野手が、「もう、クビですよ」と吐き捨てるように言ったのは、8月2日の夜、ナ・リーグ中地区の首位レッズとの試合後のことだ。

 その日、数字だけなら5打数2安打、1本塁打2打点と活躍したことになるが、今季9号ソロ本塁打は15対6と大差のついた終盤、相手が控え捕手をマウンドに立たせたことで生まれた一本だ。打順も、それまでの「2番」や「5番」から「7番」まで下がっていた。

「当然の打順だと思います」と鈴木は続けた。

「(今日の打席は)全然良くない。感覚が良くないんで、続かない。(練習も)良くない。こういう試合では打てるかもしれないですけど、競ってる場面では打てないかなって感じですね」

「調子は良くないですが、これからも頑張ります」などと、おざなりの言葉を残さないところが、彼らしく、そして生々しかった。

 実はその前日から、「Seiya Suzuki」の名が、スタメンから消えるようになっていた。

8月1日 レッズ戦 出場なし    
8月2日 レッズ戦 7番・右翼
8月3日 レッズ戦 出場なし    
8月4日 ブレーブス戦 6番・右翼
8月5日 ブレーブス戦 出場なし
8月6日 ブレーブス戦 出場なし 
8月7日 メッツ戦 8回に代打→右翼

 7試合でスタメンが2度。途中出場した7日も、2対10と大差がついていなければ、欠場していたような試合展開だった。事実上の「レギュラー剥奪」だった。
 8日の試合前、日米の取材に応じた鈴木は、「いやもう、悔しいですよ」と言った。

「大切な試合が続いてますし、今までは我慢して使ってもらってましたけど、そういう状況じゃないと分かってますし、結果が出てれば使ってもらえる。これが野球だと思う。結果が出なければ試合には出られないというのがこの世界だと理解しているし、それは仕方ない」

 彼が言う、「我慢して使ってもらっていた」というのは事実だ。

 キャンプ中に左脇腹を痛めた鈴木は、4月14日に復帰して以来、山あり谷ありのシーズンを過ごしてきた。単純にヒットを打つ確率=打率だけを目安に話すと、月間打率は4月が15試合で.254、5月が27試合で.319、6月が20試合で.177、7月が26試合で.240と激しく揺れ動きながらも、デビッド・ロス監督は、「調子の波なんて、誰にもあるものだ」と鈴木をスタメンで起用し続けた。

 打撃の調子が揺れ動く中、鈴木の心も揺れ動いていた。

 それは過去の談話を振り返ってみると、よく分かる。たとえば5月23日、地元シカゴでのメッツ戦で先制ソロ本塁打で勝利に貢献した夜、彼はこう言っている。

「元々はシンカー系のボールに対応しようと思って、いろいろバットの軌道を変えてきましたけど、あんまり自分の中でしっくりこなかったんで、打球が上がる感覚が出てきたんで、その軌道を元に戻したという感じですかね。広島時代と言うより、ずっとやってきたスウィングに」

 カブスにはコディ・ベリンジャー外野手やニコ・ホーナー内野手ら、アッパースウィングの軌道で無理に手首を返さない「流行り」のスウィングで好成績を残している打者がいる。鈴木も本来の自分のスウィングとのハイブリッドで、「ちょっと上げ気味のスウィング」を試みているが、「自分の中でしっくりこなかったんで元に戻した」。5月はそれが奏功したはずだが、前述の通り、6月は今季最低級の成績に終わった。打率が.259まで持ち直した前半戦最終日(7月9日)の試合後、彼はこう言っている。
 
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チームが売り手から買い手に回ったことで鈴木の立場にも変化