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生まれた時に父は刑務所、2度の刃傷沙汰...ワールドシリーズで大活躍中の“狂犬”トミー・ファムの壮絶人生<SLUGGER>

久保田市郎(SLUGGER編集長)

2023.10.31

球界きっての武闘派として名を馳せるファムだが、さりげない優しさも垣間見える。(C)Getty Images

 ワールドシリーズ第2戦、ダイヤモンドバックスのトミー・ファムが4打数4安打の大当たりで勝利に貢献した。あと1本出ればシリーズ新記録だったにもかかわらず、「チームメイトに大舞台での打席を経験させてあげたかったから」という理由で自ら交代を申し出たことでも話題を集めた。

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 第1戦では本塁打も放ったこのファム、実は球界きっての暴れん坊として知られている。今年9月には、夏まで在籍していたメッツの野手陣について「これまで一緒にプレーした中で最も怠惰な連中」とバッサリ斬って捨てた。とにかく、思ったことは口にしないと気が済まない、気に入らないことがあったらすぐに手が出る、という分かりやすい瞬間湯沸し器。

 レッズに所属していた昨年5月にはこんな事件があった。試合前練習中、相手ジャイアンツのジョク・ピーダーソンの下につかつかと歩み寄ったファムはいきなりビンタを一閃。すぐさまSNSで盛大に"バズった"この事件、真相は何と「ファンタジー・フットボール」をめぐるトラブルだった。

 前年、ファムとピーダーソンは同じリーグでプレーしていたが、故障選手の取り扱いをめぐって衝突。怒ってリーグから抜けたファムがピーダーソンに復讐した、というのが事の真相だった。これが知れ渡るや、今度はあまりのくだらなさにまたバズるという、何とも言えない展開になった。
 
 この一件が起きる前から、ファムは球界きっての「武闘派」として名を馳せてきた。パドレス時代の21年には、過激なヤジを飛ばすファンに対して「俺は相当なファイターだぞ。理由もなくムエタイ、カンフー、ボクシングをやっているわけじゃない」と挑発。22年4月のパドレス戦では、捕手に激しいスライディングをかましたルーク・ボイトに激怒。「あいつが決着をつけるつもりなら、やってやろうじゃねえか。ここ(サンディエゴ)には、いつでもジムを使わせてくれるオーナーがいるんだ。ムエタイでも何でもいいぜ」(ここでもムエタイが登場する)とまくしたてた。

「虚勢を張る」と表現したら怒られるかもしれないが、一連の発言を読み返すと、「相手にナメられたら終わり」と思っているのか、とにかくいつもイキっているように見える。ピーダーソンとの一件でも、ファンタジー・フットボールにかなりの金を賭けていたことを自ら明かし、「俺はラスベガスじゃハイローラー(大金を賭けるギャンブラーのこと)として有名なんだ」と謎のマウントを取っていた。さらに、リーグのコミッショナーを務めていたマイク・トラウト(エンジェルス)にも批判の矛先を向けるなど、まるで手当たり次第に噛みつく野犬のよう。

 そんな性格だから、トラブルに見舞われることも多い。20年にはサンディエゴのストリップクラブで喧嘩に巻き込まれ、腰を刺されて重傷を負った。13年には、義父に脇腹を刺された(!)こともあったという。現役中に2度も刺される選手など、世界広しといえどもファムくらいだろう。