この「ナイフみたいに尖っては触るものみな傷つける」ファムのパーソナリティは、どうやら生まれ育った環境が大きく関係しているようだ。
ファムは1988年3月にラスベガスで産まれた。ファムと双子の妹のを産んだ時、母はまだ17歳だった。父は高校時代にアメフトで鳴らしたが、いつしかドラッグに溺れて犯罪に手を染め、刑務所暮らし。ファムは極貧の中で育った。
映画『フィールド・オブ・ドリームス』にも描かれているように、幼少時代の父とのキャッチボールが「野球の原点」だという選手は日米問わず多い。だが、ファムはそんなものとはついぞ無縁だった。「親父はいつも刑務所にいたから、キャッチボールがしたい時は壁にテニスボールを投げていた。打撃練習をする時は自分でボールを宙に上げて打っていた」。
12歳の時、母親から言われたことをファムはずっと忘れられなかったという。「あんたは黒人で、父親が刑務所にいる。ってことは、あんたも刑務所に入る可能性が高いってことだよ」。 ファムは父親を反面教師にして、スポーツにも学業にも真面目に打ち込んだ。ある時、ファムが所属していた少年野球のチームが公園を貸し切りにしたことがあった。チームメイトがゴーカートやライドに乗ってはしゃぐ中、ファムだけは一人打撃ケージにこもって打ち続けていたという。母親から妹の世話も仰せつかり、デート相手の素性を調べ、夜遊びなども厳しく管理した。「球界きっての武闘派」には、そんな生真面目な一面もあるのだ。
マイナー時代には円錐角膜という眼の病気を発症し、キャリアの危機を迎えたが、それも見事に克服して生涯年俸3000万ドル近くを稼ぐ立派なメジャーりがーとなった。
ファムは自らの半生を振り返ってこう言っている。「自分を哀れんだりはしない。自分の経験を苦労だとも思わない。人生ってのはそんなものさ」。
そんなファムが35歳になって、メジャーリーガーにとって最高の檜舞台で輝いている。それもまた人生、ということだろうか。
文●久保田市郎(SLUGGER編集長)
※SLUGGER 2023年3月号『MLB珍獣図鑑』を加筆・修正
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12歳の時、母親から言われたことをファムはずっと忘れられなかったという。「あんたは黒人で、父親が刑務所にいる。ってことは、あんたも刑務所に入る可能性が高いってことだよ」。 ファムは父親を反面教師にして、スポーツにも学業にも真面目に打ち込んだ。ある時、ファムが所属していた少年野球のチームが公園を貸し切りにしたことがあった。チームメイトがゴーカートやライドに乗ってはしゃぐ中、ファムだけは一人打撃ケージにこもって打ち続けていたという。母親から妹の世話も仰せつかり、デート相手の素性を調べ、夜遊びなども厳しく管理した。「球界きっての武闘派」には、そんな生真面目な一面もあるのだ。
マイナー時代には円錐角膜という眼の病気を発症し、キャリアの危機を迎えたが、それも見事に克服して生涯年俸3000万ドル近くを稼ぐ立派なメジャーりがーとなった。
ファムは自らの半生を振り返ってこう言っている。「自分を哀れんだりはしない。自分の経験を苦労だとも思わない。人生ってのはそんなものさ」。
そんなファムが35歳になって、メジャーリーガーにとって最高の檜舞台で輝いている。それもまた人生、ということだろうか。
文●久保田市郎(SLUGGER編集長)
※SLUGGER 2023年3月号『MLB珍獣図鑑』を加筆・修正
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