プロ野球

「何とか食らいつこうと決めていた」。第3戦で抑えられた内角へのフォークに対応した森下翔太が、阪神に第5戦の勝利を呼び込んだ<SLUGGER>

氏原英明

2023.11.03

ルーキーながら日本シリーズで3番の大役を任され、重圧の中でも期待に応えた森下。今後のシリーズでもキーマンになるはずだ。写真:野口航志

 オリックスの捕手・若月健矢はまたそこに構えていた。

 日本シリーズ第5戦の8回裏1死二、三塁のことだ。

 1点をリードして守りに入っていたオリックスのマウンドにはこの日が3連投となる宇田川優希。150キロ超のストレートとスプリットで三振をとれるパワーピッチャーだが、打者の森下翔太をカウント2-2と追い込んでいる状況で捕手・若月はインコースに構えていた。おそらくフォークで空振りを狙いにくるのだろうと言うのは想像できた。

 何せ、シリーズの第3戦がまさにそうだった。

 交互にワンサイドゲームを展開してから甲子園に移っての初戦。5対4とオリックスが1点をリードしてむかえた9回裏2死一、二塁の場面。バッターボックスの大山悠輔と対峙したオリックスのクローザー平野佳寿はインコース低めに落ちるフォークを完璧に制球した。3-2のカウントからストライクからボールになる絶妙な球で、大山のバットは空を切ってゲームセット。若月は大きく拳を作った。

 右打者にとってインコースは泣きどころだ。特にインコースのスプリットは死角になる場合があり、厄介な球なのだ。チャンスの場面で、あのコースに投げ切られたら、そう打てるものではないという識者もいる。

 それほどに難しい球だから、この日、森下を迎えたオリックスバッテリーは同じ選択してくるのだろう。そんな算段が見え隠れした。

 カウントが2-2となり、森下はこのボールを見極めることができるのだろうか。

 第5戦の雌雄を決した対戦には、そんな裏があったのだ。
 
 森下は話す。

「最悪内野ゴロでも1点取れるような打球を打とう。何とか同点に持っていくために、食らいついてこうと頑張りました。オリックスのリリーフはインコースに来るんですけど、多少アバウトに投げてくるので、そこまでインコースとは決めず、フォークとまっすぐのどっちかだと言うのを頭に入れていました。 フォークは高さだけ気をつけていましたね」

 森下はフォークを2球ファールで粘り、これがオリックスバッテリーの作戦を変えた。目線を変えようとストレートを投げ込んだが、それが乱れたのを森下は見逃さなかった。

 低めのストレートをすくい上げるように打って左中間を破るタイムリー三塁打。2人が生還して阪神は逆転に成功した。

 そして、大山も続いた。オリックスバッテリーは4球続けてフォークを投げてきたが、大山はセンター前へ弾き返したのだった。森下が生還。第3戦の伏線を回収する阪神打線の見事な逆襲で6対2で勝利したのだった。

 日本シリーズは「短いようで長い短期決戦」とも言われる。1試合1試合、1打席1打席の配球、勝負、采配などがのちに絡み合ってくる。その伏線をいかに回収するかで勝負は決まる。これが頂上決戦の勝負の妙味だ。

 もっとも、この日の森下にしてみればミスを取り返すためにも是が非でも打たなければいけない打席でもあった。
 
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「次からはまた最強のリリーフ陣を出す」