オリックスは、山本由伸のポスティングシステムによるメジャー挑戦を承諾したことを、日本シリーズ終了と同時に発表した。山本はまだ25歳なのに対し、昨オフに同じくポスティングでレッドソックスに移籍した吉田正尚は当時29歳で、彼に比べると異例のスピードにも思われるが、山本と球団はこれまで契約更改の席などで海を渡る話し合いを重ねてきた。これでも、本人が希望していた最短でのメジャー移籍となる。
2017年の初夏、ZOZOマリンスタジアムの試合前にベンチで、報道陣と雑談を交わしていた当時の福良淳一監督(現GM)が、「ファームからは山本がいいと聞いている」と初めて山本の名前を出したことを思い出した。当時、山本は高卒1年目の18歳。福良監督は「まだ使わんけどね」とこの時は笑っていたが、チーム事情から8月20日のロッテ戦で、山本はプロ初登板初先発を記録している。その10日後、31日の同じくロッテ戦で初勝利を挙げている。
この年の秋季キャンプでは、山本はブルペンで黙々と腕を振りフォームをチェックする姿が見られ、紅白戦にリリーフ登板した際は、完璧に近い仕上がりを見せた。これを見た福良監督は「ああいうのを見せられると、後ろでも使ってみたいですねぇ」と、起用法を迷ったほどだ。
もともと“先発願望”が強かった山本は、翌春のキャンプで最後まで開幕ローテーションを争ったが、この年は結局リリーフのみで54試合に登板している。オールスターにも初出場し、新人王候補にも挙げられたほどだが、本人は「今年は仕方ないですけど、来年は先発をやりたい」とあくまで先発への強い思いを訴えていた。それは山本の目標のひとつに「エースになること」が含まれていたからだ。当時はキックボクサーだったボクシングの那須川天心(誕生日が1日違いの同い年)と対談した際にも、「来年は先発をやりたいですね」と話している。
宣言通りに翌年から先発に再転向した山本は、同期入団の山岡泰輔とのダブルエースとして活躍した。防御率1.95でタイトルを獲得。オフに開催されたプレミア12で侍ジャパンデビューも果たしている。20年には最多奪三振に輝き、21年からはいよいよ“山本無双”が始まる。
夏には目標のひとつだった「東京五輪出場」を実現し、金メダルを獲得。シーズンを通して完璧な投球を続け、この年から投手四冠を3年連続で獲得し、チームのリーグ3連覇にも多大な貢献を成している。今年のWBCでも世界一となり、もはや日本球界においては敵はいない。
たった7年のNPBでのキャリアで、山本が掲げていた「エースになる」「背番号18をつける」「東京オリンピックに出る」の3つの目標はかなえた。そして、4つ目の「メジャーに行きたい」もいよいよ実現しようとしている。これだけでも凄いことだが、本人の志はもっと高いところにある。それを実現させるのは、海を渡った舞台になるはずだ。
オリ熱コラムとして「山本由伸」をテーマにするのは、おそらくこれが最後となるだろう。個人的にはルーキーイヤーから近くで見て来ただけに、とても感慨深いものがあるが、まだ残されている目標に向かって歩み出す、由伸の「新たなる物語」を日本からしっかり見守っていきたい。11月26日のファンフェスタでは、一人でも多くのファンに由伸の「最後のバファローズのユニフォーム姿」を目に焼きつけて欲しい。弱小チームを常勝チームに導いてくれた感謝の気持ちを込めながら……。
取材・文⚫︎どら増田
【著者プロフィール】
どらますだ/1973年生まれ。プロ野球では主にオリックスを取材し、週刊ベースボールの他、数々のウェブ媒体でも執筆している。書籍『ベースボールサミット 第9回 特集オリックス・バファローズ』(カンゼン)ではメインライターを務めた。プロレス、格闘技も取材しており、山本由伸と那須川天心の“神童”対談を実現させたことも。
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この年の秋季キャンプでは、山本はブルペンで黙々と腕を振りフォームをチェックする姿が見られ、紅白戦にリリーフ登板した際は、完璧に近い仕上がりを見せた。これを見た福良監督は「ああいうのを見せられると、後ろでも使ってみたいですねぇ」と、起用法を迷ったほどだ。
もともと“先発願望”が強かった山本は、翌春のキャンプで最後まで開幕ローテーションを争ったが、この年は結局リリーフのみで54試合に登板している。オールスターにも初出場し、新人王候補にも挙げられたほどだが、本人は「今年は仕方ないですけど、来年は先発をやりたい」とあくまで先発への強い思いを訴えていた。それは山本の目標のひとつに「エースになること」が含まれていたからだ。当時はキックボクサーだったボクシングの那須川天心(誕生日が1日違いの同い年)と対談した際にも、「来年は先発をやりたいですね」と話している。
宣言通りに翌年から先発に再転向した山本は、同期入団の山岡泰輔とのダブルエースとして活躍した。防御率1.95でタイトルを獲得。オフに開催されたプレミア12で侍ジャパンデビューも果たしている。20年には最多奪三振に輝き、21年からはいよいよ“山本無双”が始まる。
夏には目標のひとつだった「東京五輪出場」を実現し、金メダルを獲得。シーズンを通して完璧な投球を続け、この年から投手四冠を3年連続で獲得し、チームのリーグ3連覇にも多大な貢献を成している。今年のWBCでも世界一となり、もはや日本球界においては敵はいない。
たった7年のNPBでのキャリアで、山本が掲げていた「エースになる」「背番号18をつける」「東京オリンピックに出る」の3つの目標はかなえた。そして、4つ目の「メジャーに行きたい」もいよいよ実現しようとしている。これだけでも凄いことだが、本人の志はもっと高いところにある。それを実現させるのは、海を渡った舞台になるはずだ。
オリ熱コラムとして「山本由伸」をテーマにするのは、おそらくこれが最後となるだろう。個人的にはルーキーイヤーから近くで見て来ただけに、とても感慨深いものがあるが、まだ残されている目標に向かって歩み出す、由伸の「新たなる物語」を日本からしっかり見守っていきたい。11月26日のファンフェスタでは、一人でも多くのファンに由伸の「最後のバファローズのユニフォーム姿」を目に焼きつけて欲しい。弱小チームを常勝チームに導いてくれた感謝の気持ちを込めながら……。
取材・文⚫︎どら増田
【著者プロフィール】
どらますだ/1973年生まれ。プロ野球では主にオリックスを取材し、週刊ベースボールの他、数々のウェブ媒体でも執筆している。書籍『ベースボールサミット 第9回 特集オリックス・バファローズ』(カンゼン)ではメインライターを務めた。プロレス、格闘技も取材しており、山本由伸と那須川天心の“神童”対談を実現させたことも。
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