ワールドシリーズは、同じニューヨークを本拠とするメッツとの“サブウェイ・シリーズ”。ボビー・バレンタイン監督率いるメッツは、レギュラーシーズン94勝はヤンキースを7勝も上回り、地区シリーズとリーグ優勝決定シリーズも1敗ずつで勝ち抜いていた。
だが、そのメッツでもすでに最悪の状況を抜け出していたヤンキースを止めるのは難しかった。
初戦は1点を追う9回裏、チャック・ノブロックの犠飛で同点に追いつくと、延長12回裏にホセ・ビスカイーノがサヨナラタイムリー。第2戦ではワールドシリーズ史上屈指の珍場面が発生する。初回、メッツの3番打者マイク・ピアッツァの折れたバットを、先発のクレメンスがピアッツァに向かって投げつけるという異常な行動に出たのだ。クレメンスはシーズン中の対戦でも、ピアッツァに対して故意と疑われる頭部死球を当てていたのだが、それでも退場にならず、8回を無失点に抑えてヤンキースが連勝、96年から続くシリーズでの連勝を14に伸ばした。
メッツの本拠シェイ・スタジアムに舞台を移した第3戦は敗れたものの、第4戦はジーターの先頭打者本塁打などでシリーズ3度目の1点差勝利。そして第5戦、2対2で迎えた9回表に伏兵ルイス・ソーホーのタイムリーで勝ち越すと、その裏はリベラが抑え、ついに3年連続26回目の世界一を成し遂げた。
5試合で9安打を放ち、シリーズMVPに選ばれたジーターは「これ以上に満足いく結果はない。シーズン中、あれだけ苦しんだんだからね」。強面のジョージ・スタインブレナー・オーナーまでもが、優勝トロフィーを手渡された際に涙を流していた。苦難の時期を乗り越えての3連覇には、そのくらい感慨深いものだったのだ。
アスレティックス、マリナーズ、メッツのいずれもレギュラーシーズンの勝率はヤンキースを上回っていた。その3チームを撃破しての世界一とあって、日本だったら「さすが勝ち方を知っているチームは短期決戦に強い」などと言われていただろう。メッツの投手アル・ライターも同じようなことを言っていたし、キャッシュマンGMも「精神的にタフで、勝利を渇望する選手たちが揃っていた。不調の時期はあっても、一番大事な10月に実力を出せたんだ」と当時を振り返っている。
もちろん、大舞台での勝ち方を知る選手たちが土壇場で本領を発揮した、という一面もあっただろう。だが、それだけでは9月の急失速はとても説明がつかない。
むしろ、2000年のヤンキースが示しているのは「レギュラーシーズンとポストシーズンは別物」である、ということだ。「100%運」と決めつけるのは言い過ぎだとしても、10月に入ればそれまでの戦いは良くも悪くも一度リセットされるのである。
そう考えれば、ドジャースのブルペンがプレーオフに入って急に安定感を取り戻したとしても、まったく不思議はない。最後に連覇を達成したチームの軌跡がそのことを何よりも雄弁に物語っているのだから。
文●出野哲也
【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『メジャー・リーグ球団史』『プロ野球ドラフト総検証1965-』(いずれも言視舎)。
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だが、そのメッツでもすでに最悪の状況を抜け出していたヤンキースを止めるのは難しかった。
初戦は1点を追う9回裏、チャック・ノブロックの犠飛で同点に追いつくと、延長12回裏にホセ・ビスカイーノがサヨナラタイムリー。第2戦ではワールドシリーズ史上屈指の珍場面が発生する。初回、メッツの3番打者マイク・ピアッツァの折れたバットを、先発のクレメンスがピアッツァに向かって投げつけるという異常な行動に出たのだ。クレメンスはシーズン中の対戦でも、ピアッツァに対して故意と疑われる頭部死球を当てていたのだが、それでも退場にならず、8回を無失点に抑えてヤンキースが連勝、96年から続くシリーズでの連勝を14に伸ばした。
メッツの本拠シェイ・スタジアムに舞台を移した第3戦は敗れたものの、第4戦はジーターの先頭打者本塁打などでシリーズ3度目の1点差勝利。そして第5戦、2対2で迎えた9回表に伏兵ルイス・ソーホーのタイムリーで勝ち越すと、その裏はリベラが抑え、ついに3年連続26回目の世界一を成し遂げた。
5試合で9安打を放ち、シリーズMVPに選ばれたジーターは「これ以上に満足いく結果はない。シーズン中、あれだけ苦しんだんだからね」。強面のジョージ・スタインブレナー・オーナーまでもが、優勝トロフィーを手渡された際に涙を流していた。苦難の時期を乗り越えての3連覇には、そのくらい感慨深いものだったのだ。
アスレティックス、マリナーズ、メッツのいずれもレギュラーシーズンの勝率はヤンキースを上回っていた。その3チームを撃破しての世界一とあって、日本だったら「さすが勝ち方を知っているチームは短期決戦に強い」などと言われていただろう。メッツの投手アル・ライターも同じようなことを言っていたし、キャッシュマンGMも「精神的にタフで、勝利を渇望する選手たちが揃っていた。不調の時期はあっても、一番大事な10月に実力を出せたんだ」と当時を振り返っている。
もちろん、大舞台での勝ち方を知る選手たちが土壇場で本領を発揮した、という一面もあっただろう。だが、それだけでは9月の急失速はとても説明がつかない。
むしろ、2000年のヤンキースが示しているのは「レギュラーシーズンとポストシーズンは別物」である、ということだ。「100%運」と決めつけるのは言い過ぎだとしても、10月に入ればそれまでの戦いは良くも悪くも一度リセットされるのである。
そう考えれば、ドジャースのブルペンがプレーオフに入って急に安定感を取り戻したとしても、まったく不思議はない。最後に連覇を達成したチームの軌跡がそのことを何よりも雄弁に物語っているのだから。
文●出野哲也
【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『メジャー・リーグ球団史』『プロ野球ドラフト総検証1965-』(いずれも言視舎)。
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