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プロ野球

難病ALSと闘う患者に日本シリーズを見せてあげたい――頂上決戦の裏側で起こったもう一つのドラマ

筒居一孝(SLUGGER編集部)

2020.12.28

 Mさんの願いを叶えるべく協力を求められたのが、家の近くにあるアクティブ訪問看護ステーション大阪の中原英雄さんだった。Mさんの願いを聞いた中原さんは、他の看護師や理学療法士、作業療法士や言語聴覚士など、Mさんの治療や介護に携わる人々と相談を重ねた。いくら観客数に上限があるとはいえ、1万5000人以上が集まる一大スポーツイベント。それだけに、反対意見も出たという。だが、最終的には「最大限の対策を講じた上で、Mさんの願いを叶えてあげたい」ということで考えが一致した。

「医療現場にいる人間の立場として、新型コロナウイルス感染のリスクは常に念頭に置いて患者さんに接しなければならないのは確か。患者さんに『リスクがあるからダメだ』と言ってしまうのは、確かに簡単です。でも、コロナ禍でさまざまな社会活動が制限されて、Mさんのように難病と闘っている人は、普通の人以上に逼塞した思いを抱いています。患者さんに接する立場として、リスクに対して最大限対策を講じながらも、何かできることはないかと思ったんです」(中原さん)
 
 そして、Mさんの日本シリーズ観戦を支援する医療チームのようなものが組織された。「僕は勝手に“チーム東成”と呼んでいました(笑)」(中原さん)。“チーム東成”の最初の仕事は、まず日本シリーズのチケットを取ることだった。Mさんが思いを明かしてくれた時点で、すでに車椅子席の抽選期限が目前に迫っていた。“チーム東成”のメンバーや、Mさんの奥さんも含めて大勢の人が奔走した結果、奇跡的に車椅子席のチケットを1枚確保することができた。その後、リスクを最小限に留めるための動線の確保や、各種医療器具の準備など、万全の態勢を整えて日本シリーズ第1戦当日を迎えた。

 病気になるまでは月2回のペースで野球観戦に行っていたMさんだが、日本シリーズの観戦は実に31年ぶりだという。「やっぱり、レギュラーシーズンとは違った独特の緊張感があった」。コロナ禍で応援や声援が自粛されていたことで、バットにボールが当たる音や、投球が捕手のミットに収まる音など、耳でも野球を楽しむことができたという。「一番印象に残った選手は?」と聞くと、「ソフトバンクの千賀(滉大)。投げているボールの迫力が全然違ってすごかった」と、元キャッチャーらしい答えを返してくれた。
 

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