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プロ野球

難病ALSと闘う患者に日本シリーズを見せてあげたい――頂上決戦の裏側で起こったもう一つのドラマ

筒居一孝(SLUGGER編集部)

2020.12.28

 試合後の混雑を避けるため、ゲームセットの瞬間までは見られなかったMさんだが、実はこの日、もう一つサプライズが用意されていた。帰り際、Mさんに手渡されたのは、何と巨人の原辰徳監督のサイン色紙。しかも当日の日付と、Mさんの宛名入りだった。色紙を受け取った際、Mさんは感極まって号泣してしまったという。

 このサプライズに一役買ったのが、読売巨人軍ファン事業部の吉野逸人さんだ。今年4月、原監督や菅野智之、坂本勇人らによる東京都への総額5000万円の医療支援活動をサポートした人物でもある。「選手も監督も、ファンの皆様の声には広く耳を傾けている。こうした声に対して、私たちは何ができるかということを一緒に考え、間に立つ架け橋になりたいと思っています」というのが、吉野さんの思いだ。

 中原さんから連絡を受けて、何かできることはないかと考えた吉野さんは、高木康成マネージャーを通して、原監督に連絡を取った。すると原監督は「ぜひ書きましょう」と快諾し、今回のサプライズが実現した。このことを中原さんは「対応の早さにも驚いたし、Mさんもこれ以上ないほど喜んでくれた。それに、Mさんの思い出に残ることをしてあげたいという僕らの思いも、これ以上ない形で叶えてくださった。僕も巨人のファンになりました(笑)」と嬉しそうに語ってくれた。
 
 中原さんは「僕たちが行うリハビリの支援は、患者さんが外に出るための支援」と言う。しかし、今回のコロナ禍で、病気を抱える人々が外出すること自体がリスクになり、「まるで僕らの存在意義を否定されたようだった」。だからこそ、Mさんが「コロナ禍での観戦は自分でも怖かったが、支援者の皆さんのおかげもあり、日本シリーズをめいっぱい楽しむことができて良かった。また来年も観戦したい」と笑顔で語ってくれたことは、中原さん自身、とても達成感があったという。「患者の皆さんの思いに寄り添い、リスクを考慮しながら、その望みを叶えられる限りは叶えられるように一緒に考えることが大事だと改めて感じた」と中原さんは振り返る。

 日本シリーズではソフトバンクにいいところなく敗れた巨人だったが、その陰ではこんなドラマがあった。多くの人に支えられての日本シリーズ観戦は、Mさんの闘病生活にとって、大きな励みとなることだろう。

取材・文●筒居一孝(SLUGGER編集部)

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