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大学野球

“投げる=酷使”に抱く違和感。駒大の福山優希が、時代遅れと言われても連投する理由「身体を張るという考えではやってない」

矢崎良一

2021.10.01

福山(右)のケアを1年生の時から担当する石村トレーナー(左)。彼は登板を求める指揮官に対して「ノー」という覚悟もあったという。写真:矢崎良一

福山(右)のケアを1年生の時から担当する石村トレーナー(左)。彼は登板を求める指揮官に対して「ノー」という覚悟もあったという。写真:矢崎良一

 このとき、大倉から意見を求められたチームに帯同する石村紘一トレーナーは、直感的に「行けるのでは」という見解を示した。

 もちろん、疲労は残っているだろう。だが、仮に先発しなくても、リリーフとしてブルペン待機するのだから、どちらにしても投げる準備はしなくてはならない状況ではあった。そこで、本人にちょっとでも「難しい」という反応があったり、プロとして身体を見て、これは無理だと自分が判断したら、監督に対して「ノー」を出す覚悟が石村にもあった。状態によっては、「何回まで」「何球まで」という提案も考えていた。

 しかし、石村には身体を触ってみた感触として、「これなら大丈夫だ」という手応えがあった。それをふまえて福山本人と話をしてみると、何よりも、「投げたい」という意思が伝わってきた。

 それなら、「なんとかする」というのが、チームに帯同するトレーナーの役割だと石村は考えている。もし監督に「7回まで行かせるぞ」と言われたら、その7回を投げきらせるために、なおかつベストなパフォーマンスを発揮させるために、与えられた時間の中であらゆる手を尽くす。

「行けるか?」「行けます」の短い会話の中には、これだけぶ厚い“行間”がある。

 結果、福山は期待を上回る快投を見せ、専大打線を1失点に抑え完投勝ち。何より驚いたのは、ストレートの球威、変化球のキレともに前日を上回っていたことだ。その後も福山は、連投になると、むしろ2戦目に前の試合を上回るようなピッチングを見せている。この不思議な力は、どこから生まれて来るものなのだろうか?

 本人は「打者を見て投げているから」と自己分析する。

「相手の弱点を突く。真っ向勝負ではなくて、弱いところを攻めていくのが自分のピッチングスタイル。それは大学に来てから覚えたことです。それをするためにも、まず第1戦で投げて、打者と実際に対峙し、事前に得ていたデータが正しいかどうかを確認して、投げながら微調整していく。だから2戦目のほうが、たとえ連投になっても、僕の中では『こう攻める』というデータがまとまっているからいいんです」

 福山が連投をこなせる理由を探る中で、石村にフィジカル面の特徴を聞くと、意外な話が返ってきた。

「(福山の身体が)特別強いとは思いません」
 
 そして、筋肉疲労の回復の早さも、「決して早いほうではない」と言う。全試合登板を果たした春のリーグ戦も、コンディション的にはまったく好調とは言えず、むしろ「ずっとキツかったのではないか」と振り返る。

「ただ、そこでの体調のコントロールが非常に上手いんです。張っている状態でも普通に投げられる。それがスタンダードな身体を作っている」と石村は言う。

「そもそもシーズンを通してずっと良い状態なんてありえないんで。悪い状態の中でどう投げるのかをいつも考えています」

 福山は当たり前という表情で言った。

 ただ、“これ以上やると壊れる”という境界線はきちんと持っている。石村は、「痛みに対しては、むしろ敏感なほうです」とも明かしている。

 実際に、過去に故障も経験している。2年生に進級する前の春先、肩に違和感を覚えた。痛みがなかなか取れず、診察を受けると、腱板の炎症と診断された。

 石村の見たところ、「投げようと思えば投げられる」という印象だった。だが、福山自身は「投げられない」と答えた。そうしたコミュニケーションを経て、監督には「(登板は)難しいです」とトレーナー判断を伝えた。それを聞き、大倉も福山抜きでシーズンを戦うことを覚悟していた。

 ところが、開幕が直前に迫った春のリーグ戦が、コロナ禍で中止となる。言い方は良くないが、これは福山にとって不幸中の幸いだった。本来ならシーズン中だった期間を治療に専念し、夏前には完治。不安なく投げられる状態になっていた。

 故障を経験したことで、福山は今まで以上に自分の身体に気を遣うようになった。投げた後に自ら行なうケアやクールダウンのメニューも、それが身体のどこの箇所にどんな影響を与えるのかを学んだ。さらに食べ物や睡眠時間にも徹底して気を遣う。それでも、「それは当たり前のこと。誰でも“普通に”やっていなくてはいけないことだと僕は考えています」と福山はきっぱりと言う。
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