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MLB

あのボンズも巧みに操縦!サイン盗みの汚名にまみれたアストロズをワールドシリーズへ導いたベイカー監督の“人間力”<SLUGGER>

出野哲也

2021.10.27

 しかし、セイバーメトリクスが浸透するにつれ、足は速くても出塁率の低い打者を上位に配置する打線の組み方や、先発投手に球数を投げさせすぎるベイカーの采配は、オールドスタイルとの批判を浴び始める。カブスの監督に転身した03年には地区優勝したものの、若きエース候補マーク・プライアーを酷使して潰したと非難された。

 10年と12年はレッズ、16~17年はナショナルズの監督として地区優勝。4球団を地区Vに導き、実績的には文句なしの名将と称えられて然るべきところ、「時代の流れについていけない」との批判は止まなかった。17年限りでナショナルズを退団した時には「隠居するつもりはない。まだまだ監督業を続けたい」と意気軒高だったものの、声がかかりそうにはなく、趣味と実益を兼ねたワイナリー経営に専念するのでは……と見られていた。

 ところが20年、ベイカーは齢71にして監督の座に舞い戻る。17年に世界一となったアストロズが常習的に相手チームのサインを盗んでいたことが発覚し、19年オフに当時の監督とGMが1年間の資格停止処分を科せられたのち解任。その後任の指揮官として「高潔な人物」(ジム・クレイン・オーナー談)であるベイカーが求められたのだ。
 
 極度のデータ偏重で知られたアストロズのチームカラーからすれば、ベイカーほど似つかわしくない人選もなかったはずだ。だが、サイン盗みに対する反感の激しさは、「人間味に欠ける冷徹なチーム」というアストロズの評判が一役買っていた側面もあった。そこで一種のダメージコントロールとして、選手にも報道陣にも受けのいい「好々爺」が選ばれたのだった。

 そして、これは結果的に最高の選択となった。選手に対して厳しすぎず、かといって甘やかしすぎもしないベイカーの絶妙の匙加減は、何十年にもわたる監督生活で培われたもの。それこそボンズの薬物スキャンダルをも切り抜けてきた経験を以てすれば、サイン盗み騒動への対処も手慣れたものだった。
 

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