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MLB

不正投球を“エンタメ”に昇華させたゲイロード・ペリー。殿堂入りも果たした名投手と薬物疑惑に揺れ続けるバリー・ボンズの「違い」<SLUGGER>

出野哲也

2022.12.06

 スピットボールを投げるつもりだと打者に思わせるため、髪の毛やユニフォームのあちこちに触り、何かを付着させているようなしぐさをして疑心暗鬼に陥らせる。そうして心理的に優位に立つことが、本当の狙いだったとも考えられる。

 本物のスピッターも投げていただろう。だが、それだけで300勝もできるはずがない。バリー・ボンズでさえ、ステロイドの力だけで本塁打記録を作ったのではない。類い稀な技術の上に「プラスアルファ」が加わったから怪物的なパフォーマンスが生まれたのであって、その点はロジャー・クレメンスも同様だ。

 そのボンズやクレメンスは、薬物使用の噂があるせいで野球殿堂に入れていない。薬物検査には一度も違反したことがなく、出場停止などの処分を受けていないにもかかわらず、である。ペリーは禁止薬物を使ったわけではないが、不正な手段を使ったと公言しながらも91年に殿堂入りしている。その差はどこにあるのだろうか?
 
 一つ挙げるなら、スピットボールは薬物のように肉体そのものを変えるものではない、という点だろうか。もっとも、ペリーにスピッターの投げ方を教えてもらった殿堂入り投手のバート・ブライレブンは、ヒジに負担がかかりすぎて簡単には投げられない、と回想しているので実際には悪影響はあったようだが。

 また、ペリーの投球は審判や相手チームとの駆け引きを楽しむような、「スピッター芸」とも呼ぶべきエンターテインメント性があって、半世紀前のアメリカのファンは、確かにそれを楽しんでいた。

 ペリー自身は「球界では、優れたスピットボーラーは犯罪者ではなく芸術家と見られているんだ」と語っていた。もしスピットボールを投げている証拠を何度もつかまれていたら、反応は違っていたかもしれないが、そうはならなかった。21年に大きな問題となった、ボールに粘着性物質を付けて回転数を高める行為との違いもそこにあるかもしれない。

 もっとも、今の時代にペリーが同じことをしても受け入れられるかどうかは疑わしい。アストロズのサイン盗み問題なども含め、公正でない方法で戦うことに対する世間の目は、以前よりも厳しくなっている。ペリーのような異能の投手が再び現れる可能性は、限りなく低いだろう。

文●出野哲也

【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『メジャー・リーグ球団史』『プロ野球ドラフト総検証1965-』(いずれも言視舎)。


 

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