試合後、背番号17はお立ち台に上がった。そして万感の想いを噛みしめるように、こう振り返った。
「色々ありましたけど、今日、自分ができることをしっかりやって、今日このマウンドに立てることに感謝しました」
さまざまな感情が去来していたのは、想像に難くない。それでも21歳は笑顔で歓声に応え、逞しく成長した姿を見せた。
この試合は生まれ故郷の陸前高田市でパブリックビューイングが開催された。とくに子どもたちにとっては、“憧れのエース”である佐々木の投球は間違いなく胸を打ったに違いない。試合前に「朗希らしい投球を見せてくれたらいい」と期待をかけた栗山監督もそのひとりだった。
宮崎で実施された強化合宿の中盤で、3月11日の登板を本人に告げた61歳の指揮官は、試合後の会見で大役を果たした21歳をこう評した。
「まずは、本当に1球1球、魂を込めて、目いっぱい投げてくれた朗希の姿がベンチでも凄く感じられた。球のスピードとか、そういうことよりも、彼もいろんなことを感じながら、思いを届けている感じがしましたね」
しばらく大好きだった野球ができなくなり、何より日常を奪われたあの日から12年――。日進月歩で成長を続けてきた佐々木は、まだまだ飛躍を続けるだろう。「世界のササキ」と称される日もそう遠くはないに違いない。そのなかでこのチェコ戦は、彼のキャリアにとっても、大きな意味のあるものになったはずだ。
取材・文●羽澄凜太郎(THE DIGEST編集部)
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