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【玉木正之のベースボール今昔物語:第15回】「それを作れば、彼らがやってくる」――アメリカ最高の野球映画『フィールド・オブ・ドリームス』の素晴らしさと“聖地”での思い出<SLUGGER>

玉木正之

2025.07.25

 私にとっての『フィールド・オブ・ドリームス』は、それだけでは終わらなかった。

 翌90年の一般公開が終わり、秋にDVDが発売という時、それに合わせて映画の舞台になったアイオワ州のトウモロコシ畑を見学するというツアーが募集された。私は25人程度のツアー客の案内役兼解説役という仕事を依頼されたのだ。

 こんな素晴らしい仕事はないと喜んで、直行便でシカゴに着いた翌日は、コミスキー・パークでホワイトソックスのゲームを観戦。同球場はこの年限りで取り壊されることが決まっており、ラストゲームの前日の試合だった。さすがに日本の旅行社もラストゲームのチケットは入手できなかったのだが、古い球場との別れを惜しむ満員のシカゴのファンと一緒にナイトゲームを楽しんだのだった。

 そして翌日は、早朝にバスでシカゴのホテルを発ち、約8時間かけてアイオワ州ダイアーズビルという田舎町に到着。その間、バスの窓の外は、延々とまったく同じ風景――ただただトウモロコシ畑が続くだけ。私がマイクを持ってメジャーリーグ、アメリカ野球の素晴らしさについて解説したり、『フィールド・オブ・ドリームス』だけでなく『メジャーリーグ』の映画監督のデヴィッド・ワードにインタビューしたときの話をしたり(彼は、最高に素晴らしいスポーツ映画は市川崑監督の『東京オリンピック』だと言っていた)......さらに1時間ほどグッスリ熟睡してから目覚めても、窓の外はまったく変わらない風景のトウモロコシ畑。

 いい加減ウンザリした末にやっとのことで、フィールド・オブ・ドリームスにたどりついたのだったが......そこは本当に素晴らしい夢のような野球場だった!
 
 大人も子供もあちこちでキャッチボールに興じたり、バッターボックスに立ってピッチャーの投げる球を思い切り打ったり、バッターの打つ順番を待って並んだり......外野の芝生の上では、ビニールシートを広げて食事をしている家族がいたり......。

 私も、バスの運転手をしてくれたかなり太めの黒人の若者とキャッチボールをした(フットボールとバスケットボールしかしたこがないという彼のキャッチボールの下手さには驚いたが)。映画の台詞にあった「ここは天国かい?」という言葉を口にしたくなるほどの場所だった。

 その日は再度バスに乗って少し離れた町にあるホテルで夕食を摂り、宿泊しただけだった。が、さらに素晴らしかったのは翌日だった。

 再びフィールド・オブ・ドリームスへ行き、キャッチボールでもするかと思っていると、何と! 外野のフェンスのように立ち並んだトウモロコシ畑の背の高い茎の間から、古いホワイトソックスのユニフォームを身に付けた選手たちがぞろぞろと8人現れたのだ。

 その映画そっくりのシーンに、日本から来たツアーの皆さんも、朝から自動車で集まっていた近所(?)の人々も大拍手しながら大喜び。彼ら昔の(!)ホワイトソックスの選手たちは、軽くウォーミングアップすると守備位置につき、フィールド・オブ・ドリームスに集まってきた野球好きの観光客を相手に、大人も子供も、老人も老婆も、男も女も、バッターボックスに立った全員を相手に、ベースボールを楽しませてくれたのだった。
 
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