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大学野球

チームを支える“なんでも屋”。雑務の傍ら打撃投手で200球を投げる日も。青学大の敏腕学生マネージャーの素顔【大学野球の裏側コラム】

矢崎良一

2022.11.30

悩んだ末に大学でも“野球人”としての人生を歩む決意をした。そんな佃にとってマネージャーとしての日々は充実したものだった。写真:矢崎良一

悩んだ末に大学でも“野球人”としての人生を歩む決意をした。そんな佃にとってマネージャーとしての日々は充実したものだった。写真:矢崎良一

 大学進学に際し、野球の継続について悩んだ。

 青学大に入ってくる甲子園常連校の主力やドラフト候補に名前が挙がるような選手たちとは、努力だけでは埋められない力の差があることはわかっていた。チームメイトの他の4人が準硬式に転向するなか、「まだ硬式に関わりたい」という気持ちが強かった。そこで思い至ったのがマネージャーだった。これまでも高等部のOBが何人かマネージャーを務めている。佃の姉も青学大の女子マネージャーだった。「また違った目で、レベルの高い野球を経験するのもいいな」と考えた。

 大学に入って気付いたことが二つある。一つは、高校時代に安藤監督から教わってきた野球が、全国の強豪校から来た選手たちにも劣らないレベルの高さだったこと。彼らのように打ったり投げたりはできなくても、彼らがそれぞれの局面ですべきことはすぐにわかった。
 もう一つは、安藤監督の指導スタイルの変化。高等部時代とは180度変わって、選手の自主性を尊重し、言葉を掛ける時も口調は穏やか。それは昭和から、平成を通り越して一気に令和の時代になったような驚きがあった。

「僕らのように何もできない選手なら、厳しく訓練することが技術を身に付ける近道です。でもウチに入って来るような選手は、打ったり投げたりの技術はあるし、高校までに教わってきた形もある。そういう選手に頭ごなしに言っても反発するだけで、かえって遠回りになる。監督はいろんな引き出しを持っているんだな、と。こういう人の下で野球をやれて、本当に勉強になりました」
 佃はあらためて自分の選択が間違っていなかったことを実感している。

 じつは佃の父の守さんも、大学時代に神宮球場でプレーした選手だった。
 
 1990年の東都リーグは亜細亜大が春秋のリーグ戦を連覇し、春の全日本大学選手権も制し日本一に輝いている。歴代でも屈指の強力チームの中心は強力な投手陣。エースはその年のドラフトで史上最多8球団から1位の重複指名を受けた左腕・小池秀郎(元・近鉄)。高津臣吾(現・ヤクルト監督)が2番手投手で、この悔しさをバネにプロ入り後に飛躍したという逸話は今もよくメディアで取り上げられるが、厳密に言うと高津は4番手だった。下級生の頃は、小池と川尻哲郎(元・阪神)が先発し、リリーフに佃(守)という布陣。高津はそれに続く存在だった。

 守さんは卒業後、社会人野球のNTT信越に進み、都市対抗で完封勝利を挙げドラフト候補と呼ばれた時期もあったが、アマチュアのまま現役を終えた。先発でもリリーフでも行ける、チームの役に立つ投手だった。今ではNTTの企業チームからクラブ化した信越野球クラブで部長を務めている。

 佃はそんな父の球歴を「そういうことを家族に話さない人なので」と言い、あまり知らなかった。キャッチボールの相手をしてもらったことはあるが、細かく指導を受けた記憶はない。「中学生くらいの頃、試合を見に来た後に何か注意された時、僕が“はいはい”みたいな感じで聞き流していたら、それからアドバイスもしてくれなくなりました」と言う。

 いやいや、それは勝手な思い込みだろう。高等部時代、忙しい仕事の合間に母の絵里さんと一緒にグラウンドに足を運び、ネット裏から息子のプレーを見守っていた。そして、時折我が子に向かって浴びせられる監督の怒声も、それが当たり前の環境にいた守さんにしてみれば、むしろ懐かしいくらいに思っていたことだろう。

 厳しさのなかで鍛えられ、成長し、エースや4番打者のような主役ではないが、チームに欠くことの出来ない大事な存在になった。場所と形は違うが、父子は根っこのところで同じような野球人生を送っているのかもしれない。

 卒業後は一般企業に就職する佃。父のように仕事で野球に関わるつもりはない。ただ、もしチャンスがあれば硬式のクラブチームに入って“本気”の野球をまたやってみたいと思っている。

取材・文●矢崎良一

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