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MLB

「たかが一本なんで」――“いつもと違う開幕戦”で本塁打を放った鈴木誠也が踏み出したカムバックへの道<SLUGGER>

ナガオ勝司

2023.04.17

 キャンプが終わってもアリゾナ州メサにある球団施設に残って調整を続け、3月下旬の練習試合にまず守備だけで参加した。4月3日からは味方の若手選手たちに混ざって打席に立ち、8日に3Aアイオワ・カブスのユニフォームを着て、敵地で行なわれたセントポール・セインツ戦から、メジャー復帰への「最終段階=マイナーリーグでのリハビリ調整」を開始した。

 セントポールでの2試合と、アイオワでの2試合の合計で13打数4安打、1本塁打2打点1四球。カブスのデビッド・ロス監督が公言していた、「オープン戦では普通、50打席から60打席に立つものだから、彼(鈴木)にも復帰するまでにも、それに匹敵する打席を与えるのが理想だろう」には足りない。

 ただし、練習試合から数えれば、すでに30打席前後は立っている勘定になる。大事なのは、アイオワでの2試合目で9イニングに出場したことだった。なぜなら、リハビリ出場中の野手にとっての、最後の関門が「フル出場」だからだ。

 メジャー復帰は周知の事実で、マイナーでのリハビリはその日が最終戦になる。当然、熱心でプロ意識の高いアイオワの地元メディアは、何度となく「メジャー復帰」を明言させたかったが、鈴木はこう言って笑うだけだった。

「シークレット」。

 チームからの公式発表もないのに、選手が自ら情報を漏らすことはできない。あまりの「シークレット」連発に、会見が終わった直後、リポーターの一人が、会見に応じてくれた礼を言いながらも、「You have too many seacret(あなたは秘密だらけですね)!」と言い、笑いの輪が広がった。

 鈴木は、笑いの基本である緊張と緩和、をよく心得ている。
 
 冗談はさておき、打撃の調子以外にも、実は心配なことがある。

 約2週間遅れのシーズン開幕だ。当初、見込まれていたよりも早い回復だったものの、WBCの余韻が少しも残っていないメジャーリーグで、公式戦の真っ只中に放り込まれることになるのだから、通常のオープン戦の時のように、結果を気にせず疲労を抜く時期がない。
 
「シーズンがもう始まってしまっているんで、それは仕方ない。それまで休んでたんで、ちょうどいいんじゃないですか。もちろん疲れはありますけど、こればかりは慣れるしかない。身体にはまったく気にならない感じでやれていますんで」

 メジャーリーグとは、そういう危惧をしている場所ではない。それを再認識させたのは、他ならぬ鈴木自身の言葉だった。今季初本塁打を放った復帰戦の試合後、彼はこう言っている。

「チームからは1年目とは違う期待を持たれていると思いますし、僕もそういう思いで入ってきているので、とにかく、やってやるっていうだけです。(定位置も)まだまだ確約されているわけじゃないですし、この世界、いくら活躍していても、1年駄目だったら駄目になってしまう世界なので。そこは毎年変わらず、いくら結果を出したとしても、そこはこれから先、ずっと変わらない」

 鈴木誠也のカムバック。ようやく始まった、2023年シーズン。もう、立ち止まることはない。大きくジャンプするわけでもなく、小さくステップを刻みながらでも、進むのみだ――。

文●ナガオ勝司

【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、アイオワ州のマイナーリーグ球団で取材活動を始め、ロードアイランド州に転居した'01年からはメジャーリーグが主な取材現場になるも、リトルリーグや女子サッカー、F1GPやフェンシングなど多岐に渡る。'08年より全米野球記者協会会員となり、現在は米野球殿堂の投票資格を有する。日米で職歴多数。私見ツイッター@KATNGO
 
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