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MLB

【プエルトリコ野球“復権”の理由:後編】“新時代の育成法”で好選手を輩出

中島大輔

2020.07.30

 現在、プエルトリコには野球に特化したアカデミーが約10校ある。その一つ、ネクスト・レベル・アメリカ・アカデミーは07 年に創設された。昨年、千葉ロッテでプレーしたケニース・バーガスが一期生だ。

 代理人業を経て同校を設立したペドロ・レオンは「スチューデント・アスリートのためのプログラムを作りたかった」と語る。アメリカでゴルフのタイガー・ウッズやテニスのウィリアムズ姉妹が学んだIMGアカデミーに倣い、島内で初めてオンライン教育を取り入れた。授業はすべて英語で行われる。入学時にはほとんどの生徒が英語をできないが、半年経てば誰でも話せるようになるとレオンは豪語する。

「ここにあるのはアメリカと同様の環境だ。ライティング、スピーキングなど英語で求められるすべてのスキルを身につければ、自分のキャリアの助けになる。スチューデント・アスリートがカレッジに行く準備をするためのプログラムを組んでいる。『君はこれを勉強しなさい』と押し付けるような先生はうちの学校には必要ない。生徒たちは自分でカリキュラムを組んで学んでいく。自分に責任を持ち、自立しなければスチューデント・アスリートとして成功することはできない」
 
 レオンは日本から学んだ規律を大切にし、校内には自由奔放な中南米とは信じがたい光景が広がっている。授業中に私語をする生徒は皆無で、終業時間になると自ら掃除を始める。カバンやグローブは日本の高校野球部のように一糸乱れず並べられている。軍隊のような規律とともに、高校生たちは普段の生活から自身を成長させていく。練習では12オンスの重いボール(通常のボールは5オンス)を使ってキャッチボールを行い、合理的な投げ方を身につけるなど質の高いメニューが月曜から木曜まで毎日3時間実施される。

「ここはプレップスクールのようなものだ。アメリカのカレッジでうまくやっていけるように、生徒たちをたくましく成長させていく。プエルトリコの高校からドラフトで指名されて万ドルの契約金をもらえるような選手は、大学で力を磨けば3、4倍の額を手にできる。ドラフトに組み込まれる以前はまだ準備をできていない選手がMLB球団と契約していたが、数年でクビになっては意味がない。ドラフトに入った後、我々には選択肢が増えた。それがドミニカンとの違いだよ」

 周囲のカリブ海諸国と同じく、プエルトリコの経済状況は決して恵まれていない。しかし、この島には少なくともチャンスが転がっている。野球の才能があれば、質の高い教育を受け、自らの未来を切り開くことができる。

 中南米にありながらアメリカの一部であるという独特な土壌と、将来を見据えた投資、そして豊かな育成環境。他の中南米諸国とは違う要因が、プエルトリコが近年、好選手を数多く輩出する背景にあるのだ。

文●中島大輔
※『SLUGGER』2020年7月号より転載

【著者プロフィール】 
なかじま・だいすけ/1979年生まれ。2005年から4年間、サッカーの中村俊輔を英国で密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に野球界の根深い構造問題を描いた『野球消滅』。『中南米野球はなぜ強いか』で2017年度ミズノスポーツライター賞の優秀賞。

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