専門5誌オリジナル情報満載のスポーツ総合サイト

  • サッカーダイジェスト
  • WORLD SOCCER DIGEST
  • スマッシュ
  • DUNK SHOT
  • Slugger
MLB

ファームシステム導入、マネーボール、そしてフライボール革命――MLBイノベーションの歴史

出野哲也

2019.12.05

■「持たざる者」たちがイノベーションの原動力

 60年以降、MLBは次第に力をつけてきた選手組合の要求や、NFLやNBAなど他のプロスポーツの興隆に押される形で、次々に改革を打ち出す。エクスパンションで球団数を増やし、新たな市場を開拓(これにもリッキーは間接的に関与していた)、64年には新人ドラフトを実施。65年にはヒューストンに初のドーム球場がお目見えし、人工芝の導入で機動力野球が復権。77年から始まったフリー・エージェント制度は人材の流動化を一気に加速させた。

 エクスパンションは次なるイノベーションの元にもなった。新球団が人材不足を解消するため、自前の育成システムを構築したからである。ロイヤルズが創設した米国内のアカデミーは短期間で閉鎖されたが、ブルージェイズがドミニカ共和国で数多くの人材を発掘し、80年代になって急速に力を伸ばすと、アストロズはベネズエラに進出した。もっとも、これまたツインズの前身であるワシントン・セネタースがキューバから多くの選手を獲得した先例がある。セネタースは財政的に余裕がなかったので、独自の方法で補強を試みたのだ。そして00年代に入ると、アスレティックスのビリー・ビーンGMがセイバーメトリクスの大家ビル・ジェームズの理論をチーム作りに反映して成功を収めた。その姿を綴ったのが、今も球界に大きな影響を与える『マネー・ボール』(03年刊行)である。
 セネタースも、ビーン率いるアスレティックスも、『ビッグデータ~』のパイレーツに共通しているのは、資金力に乏しい貧乏チームだったこと。「必要は発明の母」と言うとおり、多くのイノベーションは知恵を絞らなくては戦えない弱小球団が生み出してきた。00年代後半以降、守備シフトやオープナーなど、斬新な戦略を生み出しているレイズも例外ではない。

 そして今、イノベーションはプロ野球経験を持たない外部の人間からもたらされている。ルーノーやアンドリュー・フリードマン(レイズ~ドジャース)らGM/エグゼクティブはもちろん、『MVP』ではフリーランスの打撃インストラクターであるダグ・ラッタが、ターナーのスウィングを改造してオールスター選手へ変貌させた件が取り上げられている。こうした“よそ者”を受け容れて吸収する柔軟さ、ダイナミズムもまたメジャーの強みだ。この他、DH制や地区制、インターリーグといったルール/制度面の改革も重要だったが、こうした絶え間ない進化への欲求こそが、MLBを繁栄させてきた原動力になっていた。

「データに頼りすぎる野球はつまらない」との声も聞かれるが、この状況も野球が発展していく一つの過程と考えるべきだろう。ルースがホームランを連発していた頃にも、「古き良き野球の姿が失われた」と嘆くファンがいたはずだ。

 どんなにデータを駆使しても、人間が行うスポーツという根本に変わりはない。今後も、新たなイノベーションが生み出されるはずだ。ただ、それが、『MVP』の延長線上になるものなのか、それともまったく新しい理論が生まれるのかは、まだ誰にも分からない。

文●出野哲也
※『スラッガー』2019年9月号より転載

【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『プロ野球 埋もれたMVPを発掘する本』『メジャー・リーグ球団史』(いずれも言視舎)。

RECOMMENDオススメ情報

MAGAZINE雑誌最新号