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NBA入りで「妹の親権」を勝ち取った男――トーマス・ロビンソンの波乱万丈キャリア

小川由紀子

2020.05.18

ロビンソンは、キャリア1年目から3チームを渡り歩いた。(C)Getty Images

 アンソニー・デイビスやデイミアン・リラードを輩出した2012年ドラフトで、注目選手に挙げられていたカンザス大の"Tロブ"ことトーマス・ロビンソン。1巡目5位でサクラメント・キングスに指名されてNBA入りした彼は、7シーズン後の現在、ロシアリーグのヒムキに所属している。

 しかし、3月で29歳を迎えた身長208㎝の大型パワーフォワードは、いまでもしっかりと、その視線をNBA復帰に向けている。

 地元ワシントンDCでの高校時代から全国レベルの選手となっていたロビンソンは、数々の誘いの中からカンザス大を選んだ。故郷からは遠かったが、熱心に口説いてくれたビル・セルフ・ヘッドコーチ(HC)の人柄や、マーキーフ(現ロサンゼルス・レイカーズ)とマーカス(ロサンゼルス・クリッパーズ)のモリス兄弟の存在が、彼にとっては大きな決め手だった。

 最初の2年はシックスマンだったが、3年目のジュニア時代にブレイクすると、平均17.7点、11.9リバウンド、27回のダブルダブルを達成するなどエースとしてチームを牽引。NCAAトーナメントで準優勝し、ケビン・デュラント(ブルックリン・ネッツ)やブレイク・グリフィン(デトロイト・ピストンズ)らも受賞した栄えあるBig12年間最優秀選手にも選ばれ、2012年のドラフトにアーリーエントリーを決めた。
 
 しかしその時、ロビンソンがドラフト指名に賭けていたのは、自分のキャリアよりも、彼にとってさらに大事なものだった。

 カンザス大2年目の冬、ロビンソンは、わずか3週の間に、可愛がってくれた祖父母と女手一つで育ててくれた最愛の母親が相次いで他界するという想像を絶する悲劇に見舞われた。

 3人を失ったことに輪をかけてロビンソンの心を痛めたのは、当時7歳だった妹のジェイナがたった1人でワシントンに残されることだった。ジェイナは異父妹だったが、彼女の父親は薬物売買で刑務所に入っていたため、12歳違いのロビンソンが父親がわりとして幼い妹の面倒を見ていた。

 大学寮に呼び寄せることも考えた。セルフHC夫妻も、養子縁組を真剣に検討してくれた。大学には、ジェイナの学費をサポートするための寄付金も集まった。

 しかし親権は、大学生のロビンソンではなく、その後まもなく出所したジェイナの実父に渡る可能性が濃厚だった。