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NBA

“ミラクル・ニックス”の立役者スプリーウェル&ヒューストン。正反対の個性を持った奇跡のコンビ【NBAデュオ列伝|後編】

出野哲也

2020.11.12

スプリーウェル(左)とヒューストン(右)は98-99シーズンからタッグを結成。同年にニックスは8位に終わったが、プレーオフではこの2人を中心にファイナルまで勝ち進んだ。(C)Getty Images

スプリーウェル(左)とヒューストン(右)は98-99シーズンからタッグを結成。同年にニックスは8位に終わったが、プレーオフではこの2人を中心にファイナルまで勝ち進んだ。(C)Getty Images

■2人のSGに率いられた“ミラクル・ニックス”

 ヒューストンは、同じポジションのスプリーウェルの加入を意外にも歓迎していた。「彼が入っても自分のプレーは変わらない。僕ら2人が同時にプレーできれば、相手に大きなプレッシャーをかけられる。昔クライド(ウォルト・フレイジャー)とアール(・モンロー)がそうだったようにね」。

 ところが、スプリーウェルは開幕2試合で早くも骨折により戦列離脱。復帰後も、1年以上実戦から遠ざかっていたためにプレーに今ひとつキレがなかった。しかも、新人の頃からずっとスターターだった彼にとって、ベンチからの出場ではリズムが掴みにくかった。大黒柱のパトリック・ユーイングの調子も上がらず、ニックスは第8シードで辛うじてプレーオフに滑り込んだ。

 だが1回戦の相手がヒートだったことが、奇跡の呼び水となる。ヒートはかつて2年続けてプレーオフで大乱闘になった因縁の相手。しかもポイントガードは旧敵ハーダウェイとあって、スプリーウェルが燃えないわけはなかった。ニックスが勝利を収めた第1、3戦にはチームトップの得点をマークした。
 
 そしてドラマが待っていたのは最終第5戦。この日も一進一退の攻防が続き、ヒートがわずかに1点をリードしたまま残り4.5秒。ニックスは最後のオフェンスで、スプリーウェルに最後のシュートを打たせる作戦を授けたが、うまくいかずにボールはヒューストンの手に渡った。「後ろから(ダン・)マーリーが来ているのがわかった。普通にシュートしたらブロックされるかもしれないと思ったので、少し前のめりになりながら打ったんだ」。右手一本でフローター気味に放たれたヒューストンのショットは、リムの前部に当たり、バックボードから跳ね返って、再びリム前部をかすめそのまま真っ直ぐ落ちていった。78-77でニックスが逆転。残り時間0.8秒では、もはやヒートに打つ手はなかった。劇的な逆転クラッチショットにより、史上2度目となる第8シードによる第1シード撃破というアップセットが実現した。

 この勝利でニックスは完全に勢いづいた。カンファレンス準決勝のアトランタ・ホークス戦は4連勝でスウィープ、カンファレンス決勝では長年の好敵手ペイサーズを6戦で葬り、ついに5年ぶりのNBAファイナルまで到達した。サンアントニオ・スパーズとのファイナルは1勝するのがやっとだったが、ヒューストンは平均21.6点と健闘。唯一の勝利となった第3戦でも34点を稼いだ。スプリーウェルはヒューストン以上に活躍し、シリーズ平均26.5点、最終第5戦では35得点。特に後半はほとんど一人でスパーズに食らいつき、マディソンスクエア・ガーデンの観衆を興奮させた。敗れはしたが、この素晴らしいパフォーマンスでスプリーウェルは首絞め事件の悪夢を過去に追いやり、ニューヨークの新たなヒーローとなった。
 

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