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NBA

【NBAスター悲話】トラウマに苦しみ天国から地獄へ…それでも愛されたニック・アンダーソンという男【後編】

大井成義

2019.11.17

1995年プレーオフ、復帰したばかりのジョーダンからスティールを奪い、一躍ヒーローとなったのだが……。(C)Getty Images

1995年プレーオフ、復帰したばかりのジョーダンからスティールを奪い、一躍ヒーローとなったのだが……。(C)Getty Images

 NBAにやって来るほどの選手なら、誰しもが何かしら思い出のシュートというものがある。たとえば、マイケル・ジョーダンはNCAAトーナメント決勝での逆転弾によって、スター街道を歩み始めた。だが、それとまったく正反対の悪夢を持つ者もいる。ニック・アンダーソン――。彼は、1995年ファイナルで4本連続フリースローミスという一生拭い去れないトラウマを背負い、それによってバスケットボール人生を縮めてしまったのである。

   ◆   ◆   ◆

 1993年のドラフト、マジックは参加した11チーム中最低の66分の1(1.5%)という確率にもかかわらず、奇跡的に1位指名権を引き当てる。まさに“マジック(魔法)”だった。クリス・ウェバーを指名し、すぐさま3位のアンファニー・ハーダウェイ+将来の1巡目指名権3つとトレード。“マジック・ジョンソンの再来”と謳われたペニーの加入により攻撃の幅が一段と広がったマジックは、勝ち星を一気に50へと伸ばし、球団初のプレーオフ進出を成し遂げた。だが、1stラウンドでインディアナ・ペイサーズを相手に善戦するも、若さによる経験不足が災いしスウィープで敗れ去ってしまう。

 翌シーズン、マジックはシカゴ・ブルズからベテランのパワーフォワード、ホーレス・グラントを獲得し、スターターのラインナップは他のエリートチームに引けを取らないレベルまでに充実した。シーズン57勝25敗の好成績を記録し、プレーオフ1stラウンドでボストン・セルティックスを撃破。迎えたカンファレンス・セミファイナルは、シーズン終盤に野球から復帰したマイケル・ジョーダン率いるブルズが相手だった。
 
 全米が注目するシリーズ第1戦。残り試合時間6.5秒でブルズ1点リード、ボールを手にするのはジョーダン。世界中の誰もがブルズの勝利を疑わなかっただろう。多少錆びついているとはいえ、神様ジョーダンがボールをコントロールしていたのだから。

 そのときだった。アンダーソンがジョーダンの背後からボールを弾き、それを拾ったペニーが速攻に持ち込み、最後はグラントがダンク。マジックは劇的な逆転勝利を収めた。土壇場で値千金のスティールを、それもあのジョーダンからやってのけたアンダーソンは時の人となった。試合後、「彼は以前のジョーダンじゃなかった」と大胆なコメントを発し、それを聞いたジョーダンは第2戦に罰金を覚悟で背番号45から以前の23に戻している。アンダーソンの起死回生ともいえるプレーで勢いを増したマジックはブルズを4勝2敗で破り、カンファレンス・ファイナルでもペイサーズに前シーズンのリベンジを果たし、悲願のファイナル進出を遂げた。

 ところが――。歓喜と称賛の直後に、その何倍もの苦悩をアンダーソンは味わうことになる。ファイナル初戦、まさかのフリースローミス。天国から地獄へ。その日を境に、アンダーソンは暗闇の中を彷徨い始めた。
 

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