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NBA

【NBAスター悲話】モックムード・アブドゥル・ラウーフ――病気と宗教に翻弄された男の波瀾万丈のキャリア【後編】

大井成義

2020.01.21

すべてに完璧さを求めるラウーフにとって、戒律や習慣に厳しいイスラム教は“完璧な宗教”だった。(C)Getty Images

すべてに完璧さを求めるラウーフにとって、戒律や習慣に厳しいイスラム教は“完璧な宗教”だった。(C)Getty Images

 難病(トゥレット症候群)を患ったがゆえにトップアスリートに登り詰めた男、モックムード・アブドゥル・ラウーフ(旧名クリス・ジャクソン)。彼は、その病がもたらす症状によって何事にも完璧を追求せざるを得なくなってしまった。自分で納得のいく感触を得られるまで延々とシュートを打ち続け、その結果としてNBA入りを果たす。やがて、彼は理想的な宗教と出会い、精神の安息を得るが、宗教に傾倒しすぎた結果、運命に翻弄されることになる――。

    ◆    ◆    ◆

 1992-93シーズン、ジャクソンは完全に息を吹き返した。チームハイとなる平均19.2点を記録し、最も成長した選手に贈られるMIP賞を受賞。翌シーズンにはチーム記録となるフリースロー成功率95.6%(リーグ歴代3位。前シーズン後半から達成した連続81本成功もリーグ歴代3位)を叩き出した。

 こんな珍事もあった。ナゲッツ球団社長兼GMのバーニー・ビッカースタッフが、身長185cmと小柄ながら練習で凄まじいダンクを見せるジャクソンの能力に舌を巻き、その様子を録画してリーグに送った。その結果、93年のスラムダンクコンテストへの参加が決定する。プロ入りしてから2シーズン半、公式戦で一度もダンクを決めていないにもかかわらず、である。
 
 チームメイトも彼の病気に対して徐々に理解を示すようになり、本人も自然と心を開いていった。敗戦後のロッカーで、ナーバスになっている選手たちに向かって「ちくしょう、今夜は症状が重かったよ」といったジョークまで飛び出すようになった。

 ついに生まれ変わったジャクソンだったが、そのシーズン終了後、彼は別な意味でも生まれ変わることになる。ジャクソンは1991年にイスラム教に改宗し、モックムード・アブドゥル・ラウーフという名前を得ていたのだが、93年7月、それが法的に認められたのだった。

 イスラム教はジャクソンにとって完璧な宗教だった。彼の日頃の行動と同じく、イスラム教には完璧さを追求する側面が多々あった。日に5回のお祈りや断食、厳しい戒律、それらはジャクソンの生活や考え方にぴったりと適合するものだった。
 
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