専門5誌オリジナル情報満載のスポーツ総合サイト

  • サッカーダイジェスト
  • WORLD SOCCER DIGEST
  • スマッシュ
  • DUNK SHOT
  • Slugger
NBA

【NBAスター悲話】モックムード・アブドゥル・ラウーフ――病気と宗教に翻弄された男の波瀾万丈のキャリア【後編】

大井成義

2020.01.21

 アメリカのプロスポーツでは、競技を開始する前に必ず国家が斉唱される。その際、会場にいる者は起立し、脱帽する。別に義務ではないのだが、そうすることが慣例となっている。もちろんNBAでも、毎晩各試合会場で同じ儀式が繰り返されている。

 イスラム教へますます傾倒していったラウーフは、このシーズンからある抵抗を開始した。「アメリカ国旗は圧制の象徴である」との考えから、国歌斉唱中に起立しない、もしくは国歌斉唱が終わるまでロッカールームで待機する、というのが彼の取った行動だった。そして何事も徹底しなければ気がすまないラウーフの起立ボイコットは、60回以上にも及んだ。注意しても聞き入れないラウーフに対し、業や煮やしたリーグはついに制裁を加える。国歌斉唱時に起立しなければ罰金と出場停止処分を与える、というのがリーグの警告だった。
 
 それでもラウーフは立たなかった。警告通りに1試合の出場停止と約32000ドルの罰金をくらい、その事件はメディアを巻き込んでの大論争へと発展した。ある市民団体は、「リーグが加えた制裁は、従業員に宗教や思想を強要してはならないというアメリカの法律を犯している」と、リーグの取った行動に遺憾の意を表明した。

 リーグから処罰されてもなお強い抵抗を示していたラウーフだったが、ナゲッツ首脳陣やムスリムの先輩であるカリーム・アブドゥル・ジャバーらの強い説得により、その後起立することに同意する。起立はするが、下を向いて目を閉じ、半開きの両手のひらを顔に向け、祈りを捧げる。その残りシーズン、足のケガもありラウーフが試合に出場することはほとんどなかった。

 その事件を機に、ラウーフには“厄介者”のレッテルが貼られてしまうことになる。4シーズン連続でチームのトップスコアラーとして活躍していたにもかかわらず、オフに突如キングスへトレードで放出。キングスでの1年目、スターターとしてそこそこの成績を残したが、翌シーズンの出場試合数はわずか31試合に留まった。一度狂った歯車は、二度と元には戻らなかった。
 
NEXT
PAGE

RECOMMENDオススメ情報

MAGAZINE雑誌最新号