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NBA

消えない傷を負ったモスクワ五輪の“幻のアメリカ代表”「スポーツと政治は無関係」の理念が踏みにじられる大会に【五輪史探訪】<DUNKSHOOT>

出野哲也

2021.07.05

 ソ連は翌日のユーゴスラビア戦も大苦戦。終了間際に何とか同点に持ち込むも、延長で10点差をつけられて敗北を喫した。共産圏の国相手にオリンピックで負けたのはこれが初めてであり、アメリカのいない大会、しかも本国開催で銅メダルとあっては、面目丸つぶれもいいところだった。

 決勝戦はユーゴスラビアがイタリアに86-77で勝利。過去に2度決勝で敗れていたユーゴにとっては初の金メダルで、ヘッドコーチのランコ・ゼラビツァは「我々とアメリカが試合をして、どこが一番強いかはっきりさせたい」と意気軒昂だった。

 イタリアも初のメダル獲得となり、その栄誉を称えられ代表メンバーは全員ナイトの称号を贈られた。デイトン大出身でアメリカとイタリアの二重国籍を持ち、当時はセリエAのトッププレーヤーとして活躍していたマイク・シルベスターも出場選手の1人。彼はモスクワ五輪でメダルを手にした、唯一のアメリカ人である。
 
 他競技も含めた“幻の代表選手たち”は、アメリカ・オリンピック委員会から金メダルを贈呈された。けれども、言うまでもなくその輝きは本物とは比べものにならなかった。アグワイアは34年後、2014年のインタビューで次のように語っている。

「私たちは、皆オリンピックのためにすべてを捧げていた。金メダルをアメリカに持って帰るんだと燃えていたよ。でも、そのチャンスさえ与えられなかった。今もその傷は癒えてはいないんだ」

文●出野哲也(フリーライター)

※『ダンクシュート』2020年6月号原稿に加筆、修正。

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