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NBA

【NBA秘話】リーグに隆盛をもたらしたデイビッド・スターン――“最後の晴れ舞台”で起きたサプライズ<DUNKSHOOT>

大井成義

2021.07.16

 そして、ドラフト会場がニューヨークだったことも災いした。彼の地のファンは、辛辣かつ口が悪いことでつとに有名だ。良く言えば自由奔放、悪く言えばアホ丸出し。2003 年のドラフトでも、ニックスの不甲斐なさに怒りを煮えたぎらせていたファンが、「ファイヤー、レイデン!(GMのスコット・レイデンを首にしろ!)」という突拍子のないチャントを始め、それが大合唱になっている。スターンがオープニングの挨拶をしている最中に、声をかき消すほどの大音量で、である。

 スターンは引きつり笑いを見せながら、「熱狂的で興味津々なファンが集っています」などと言ってその場を取り繕おうとしたが、内心は呆れ果て、腸が煮えくり返っていたことだろう。この年の1位指名選手、レブロン・ジェームズも、ニックスファンの斜め上すぎるチャントに、大笑いしている姿がテレビカメラに捉えられている。

 元々、わざわざドラフト会場に足を運ぶようなレベルのファンは、ウルトラダイハードな猛者たちだ。そんな連中にとって、NBAファンの敵であるスターンを、空気を読まずこき下ろすことなど朝飯前。ただ、そんなクレイジーなニックスファンとて、誰彼構わずブーイングするわけではない。

 例えばアダム・シルバー現コミッショナー。真面目な人間性と誠実な人柄で知られる彼は、クリッパーズの元オーナー、ドナルド・スターリングの人種差別発言への迅速かつ毅然とした対応により、すべてのNBAファンの信頼を勝ち取った。それゆえ、ドラフトやファイナルのセレモニーでブーイングされることはほとんどない。ただ一度の例外を除いて……。
 
■最後の指名選手を告げた後サプライズゲストが登場

 前年2012年のドラフトで、前哨戦とも言える強烈なブーイングがあり、2013年6月27日、ついにその日がやってくる。翌2014年2月の退任が決まっているスターンにとって、人生最後のドラフトである。

 スターンがポーディアムに姿を現わすと、観客は過去最高レベルの盛大なブーイングで出迎えた。それを受け、スターンは最初の挨拶の中で「熱狂的なブルックリン」「情熱的なファン」と軽く皮肉で応戦。この日のスターンは足取りが重く体調は悪そうだったが、気力は漲っているようで、イベントを通して彼特有の嫌味を披露していた。

 迎えた1位指名選手の発表前、間をたっぷり取り、片手を上下に振ってブーイングを煽るスターン。大方の予想を裏切り、アンソニー・ベネットという、後に“史上最低のドラ1”となる超大物が1位に選ばれたというのも、何かを暗示していたのかもしれない。

 3位指名、マイクの前で十数秒間何も喋らず、じらしにじらしてから一言、「聞こえませんよ」。より一層気合を入れてブーイングする観客に対し、笑顔で親指を立てる余裕のスターン。

 6、7、9、10、14位の発表時にも、手でブーイングを煽って挑発を続け、とうとうこの日のハイライトがやってくる。
 
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