21位の発表時、マイクの前でまたもや20秒ほど沈黙した後、スターンは一気に勝負に出た。
「我々は海外の視聴者に説明しなければなりません。ブーイングはリスペクトを表わすアメリカのサインです」。
23位。「あなたたちの熱狂は徐々に弱まっていますよ」。26、27位、ラストスパートよろしく、再び手でブーイングを煽る。ここまでくると余裕綽々だ。観客の数も徐々に減り、ボリュームもだいぶ落ちてきたが、それでも負けじと必死のブーイングで応戦している。
そして迎えた30位。第4代NBAコミッショナー最後の指名選手発表である。84年の1位指名から、数えて839人目。スターンがバックステージから姿を現わす。
その時、我々は思いがけない光景を目にすることになる。ポーディアムに歩みを進めるスターンに対し、会場にいた観客の多くが立ち上がり、スタンディングオベーションと大歓声で迎えたのだった。
手で静止しながら、「やめてくれ、楽しみが台無しになってしまう」とまったく素直じゃない、いつも通りのスターン。
「これで30年間の1巡目指名発表は終わりです。新しいコミッショナー、そして今から2巡目の指名選手を発表するアダム・シルバーを紹介しましょう」。
するとなんということだろう、奥から姿を現わしたシルバーに、観客はブーイングを浴びせたのである。ブーイングとは最も縁遠かった人物に対して、である。NBAファンからスターンへの、最後の粋な餞だ。これには『ESPN』の中継番組で司会を務めていたリス・デイビスも大ウケだった。
そして、スターンがポーディアムから去ろうとした際、シルバーがとっておきのサプライズを演出する。
「ちょっと待ってください。デイビッド、今夜ここにスペシャルゲストが来ています。あなたがNBAコミッショナーとなって初めて指名を発表した選手、2度のNBAチャンピオン、リーグMVP、ホール・オブ・フェイマー、そして史上最も偉大な選手の1人、アキーム・オラジュワンです!」。
背後から、黒のタキシードに赤の蝶ネクタイでめかしこんだ、30年前とまったく同じいで立ちながら、30年分齢を重ねたオラジュワンが、笑顔で姿を現わしたのだった。
その時、テレビの音声では聞こえなかったが、現地にいた人のブログによると、観客席では新たな、そして最後のチャントが叫ばれていたという。
“We want David! We want David!”
ミスターNBA、デイビッド・スターン氏よ、安らかに―。
文●大井成義
※『ダンクシュート』2020年3月号掲載原稿に加筆・修正。
「我々は海外の視聴者に説明しなければなりません。ブーイングはリスペクトを表わすアメリカのサインです」。
23位。「あなたたちの熱狂は徐々に弱まっていますよ」。26、27位、ラストスパートよろしく、再び手でブーイングを煽る。ここまでくると余裕綽々だ。観客の数も徐々に減り、ボリュームもだいぶ落ちてきたが、それでも負けじと必死のブーイングで応戦している。
そして迎えた30位。第4代NBAコミッショナー最後の指名選手発表である。84年の1位指名から、数えて839人目。スターンがバックステージから姿を現わす。
その時、我々は思いがけない光景を目にすることになる。ポーディアムに歩みを進めるスターンに対し、会場にいた観客の多くが立ち上がり、スタンディングオベーションと大歓声で迎えたのだった。
手で静止しながら、「やめてくれ、楽しみが台無しになってしまう」とまったく素直じゃない、いつも通りのスターン。
「これで30年間の1巡目指名発表は終わりです。新しいコミッショナー、そして今から2巡目の指名選手を発表するアダム・シルバーを紹介しましょう」。
するとなんということだろう、奥から姿を現わしたシルバーに、観客はブーイングを浴びせたのである。ブーイングとは最も縁遠かった人物に対して、である。NBAファンからスターンへの、最後の粋な餞だ。これには『ESPN』の中継番組で司会を務めていたリス・デイビスも大ウケだった。
そして、スターンがポーディアムから去ろうとした際、シルバーがとっておきのサプライズを演出する。
「ちょっと待ってください。デイビッド、今夜ここにスペシャルゲストが来ています。あなたがNBAコミッショナーとなって初めて指名を発表した選手、2度のNBAチャンピオン、リーグMVP、ホール・オブ・フェイマー、そして史上最も偉大な選手の1人、アキーム・オラジュワンです!」。
背後から、黒のタキシードに赤の蝶ネクタイでめかしこんだ、30年前とまったく同じいで立ちながら、30年分齢を重ねたオラジュワンが、笑顔で姿を現わしたのだった。
その時、テレビの音声では聞こえなかったが、現地にいた人のブログによると、観客席では新たな、そして最後のチャントが叫ばれていたという。
“We want David! We want David!”
ミスターNBA、デイビッド・スターン氏よ、安らかに―。
文●大井成義
※『ダンクシュート』2020年3月号掲載原稿に加筆・修正。
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