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海外サッカー

マラドーナは死んでいない――“英雄”が去ってから1年。今アルゼンチンで何が起きているのか【現地発】

チヅル・デ・ガルシア

2021.12.03

アルゼンチン全土で数を増やしていると言う祭壇。街角に置かれたそれは人々にとって重要なものとなっている。(C)Veronica Sanchez Viamonte

アルゼンチン全土で数を増やしていると言う祭壇。街角に置かれたそれは人々にとって重要なものとなっている。(C)Veronica Sanchez Viamonte

 壁画が祭壇代わりになった現象を見て、実際にマラドーナを守護神として祀った祭壇を作り始めた人もいる。アルゼンチン国立ラプラタ大学で建築史の教師を務めるベロニカ・サンチェス・ビアモンテだ。

 サンチェス・ビアモンテは3歳だった1977年、当時アルゼンチンを支配していた軍事政権によって両親を連れ去られ、以後は祖父母に育てられた。ラグビーの花形選手だった父を偲びながら、全盛期のマラドーナに恋焦がれ、「自分の記憶の中で父親の思い出が薄れていくなか、マラドーナへの思いが日に日に強まった」という。

「86年のメキシコW杯の時、活躍を祈願して祖父がマラドーナの祭壇を作って、毎日そこにお供物をしたんです。祖父は私が15歳の時に他界してしまいましたが、手作りの祭壇の思い出はマラドーナへの愛情とともにずっと私の心に残っていました」

 昨年11月にマラドーナが亡くなった際、悲しみに暮れたサンチェス・ビアモンテは、人々が壁画のもとに集まってキャンドルや花を供える様子を見たパートナーから「君のその思いを伝えることのできる祭壇を作ってはどうか」との助言を得た。

「アルゼンチンでは街角のあちこちに祭壇が置かれています。世界の幸せを祈るものから交通事故防止を願うものまで様々ですが、誰が置いたのかわからないものばかり。絶えず花が供えられ、道行く人は祈りを捧げます。そこでマラドーナを守護神とした祭壇を作り、私が住んでいるラプラタ市内に設置しようと思いついたのです」
 
 当初はマラドーナにちなんで10箇所に設置する予定だった。だが、口コミで広がり、この1年の間になんと170もの祭壇がアルゼンチン各地に置かれた。そのほとんどが貧しい人たちが暮らす地区や、貧困層を支援する団体の施設で、まさにマラドーナの意思を引き継ぐ形になっている。

 祭壇に飾られる写真によって、「草サッカー」もあれば、「栄光」「子どもたち」と様々に守護神が存在する。

「祭壇があれば私たちはいつでもマラドーナに話しかけ、祈り、思いを伝えることができる。生前に見せてくれた数々の魔法と奇跡は人々の希望となり、マラドーナ自身も私たちの心の中でいつまでも生き続けるのです」

 あの忌まわしい2020年11月25日以後、マラドーナは壁画となり、祭壇となって、確実に、より近く、より広い範囲で人々の暮らしに浸透している。忘れ去られるどころか、今後ますます存在感を増すのではないかと思わせるほどだ。

【PHOTO】マラドーナは生きている――アルゼンチン国内で広がる壁画や祭壇によるオマージュを厳選ショットで紹介

取材・文●チヅル・デ・ガルシア text by Chizuru de GARCIA

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