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海外テニス

かつて夢見たグランドスラムへ…澤柳璃子、牟田口恵美、元トップジュニアの2人が歩む、コーチとしてのセカンドキャリア

内田暁

2020.02.25

今シーズンからタッグを組む澤柳(左)と米原(右)。写真=内田暁

今シーズンからタッグを組む澤柳(左)と米原(右)。写真=内田暁

 テニスコートに、澤柳璃子の姿があった。

 2月中旬に京都市で開催された、女子テニスのITF6万ドル大会。穂積絵莉に加藤未唯、鮎川真奈ら同期の選手たちに混じり、彼女も練習コートでボールを追っていた。

 ただ、ジャージの上下に身を包み、薄いグリップでボールを柔らかく打つ姿は、従来の彼女とはややイメージを異にする。

 プレーヤーではなく、米原実令のコーチ――。それが今大会での、彼女の肩書だ。

「あります、違和感。すごーくあります!」。
 かつてのライバルたちが立つコートに、自身はコーチとしていることについて尋ねると、はにかんだ笑みを彼女はこぼした。

 現在25歳。先の日本リーグには、明治安田生命の選手として出場し、準優勝の大躍進にも貢献した。そんな彼女が今の自分の立ち位置を、「フワフワしている」と感じるのも当然だろう。

 ジュニア時代から将来を嘱望されてきた澤柳が、自身のキャリアに一つの区切りをつけようと決意したのは、2018年春のことだった。グランドスラム出場を目指してきたが、ランキングは望んだようには上がらない。時を前後して、同期の選手たちが次々と世界で結果を出したことも、彼女の焦燥と諦観に拍車を掛けた。

 練習にも気持ちが入り切らず、「こんな形で競技生活を続けていくのは、サポートしてくれる方たちにも失礼だ」と、スポンサー等にも一度は引退を告げる挨拶に出向く。ただその中でも、「引き続き支援する」という人々の声も得て、高校テニス部のコーチ等もしながら、時に競技者としてコートに立った。さらに昨年の夏からは、ウイルソン社のプロモーションチームに籍を置きつつ、ジュニア選手の遠征帯同等も経験する。

 そして今年の初頭に、“セミ・リタイア”時に親交を深めた米原から、コーチとしてのオファーを受けた。

「私で、何か力になれることがあるなら……」
 多少は戸惑いを覚えつつも、彼女はその提案を受ける。こうして、澤柳は新たなキャリアへの一歩を踏み出した。
 
 “コーチ澤柳”の最初の仕事は、北米2大会遠征への帯同。しかもそのうち一大会は、米原にとって初のWTAチャレンジャー大会である。年齢的には澤柳より1歳年少に過ぎないながら、本格的にツアーを転戦して2年目のキャリアを送る米原にとっては、ジュニア時代から多くの海外遠征を経験している澤柳は「精神的な頼り」でもある。

 ダブルスパートナーがなかなか決まらないなか、「だったら絵莉に声を掛けてみようよ」と、穂積とのペアリングを提案したのも澤柳だ。何もかもが初の経験ながら、新コーチを得た米原は、チャレンジャーでベスト4の好結果を残す。

「特に技術や戦術的なアドバイスをするわけではないけれど、ストレスを軽減するなど、ちょっとでも役に立てているなら…」
 そう謙遜する澤柳に、「ちょっとじゃないよ、凄く!」と米原がすかさずフォローを入れた。オフコートでは友人としてくつろいだ時間を共にしながらも、コートに立てば、コーチと選手の関係にスイッチが切り替わる。

 好スタートを切り、今回の京都でも準優勝の結果を残した2人は、大阪と甲府で開催されるITF3大会でも共に戦っていく予定だ。
 
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