国内テニス

波形純理、38歳の決断――所属先を離れ、再びグランドスラムへの夢を追う【女子テニス】

内田暁

2020.12.04

かつてグランドスラム本戦も経験し、105位までランキングを上げた波形純理。テニスへの情熱は今も衰えず、所属先を離れて戦う決断をした。写真:金子拓弥(THE DIGEST写真部)

「グランドスラムを目指してずっと試合を回っていたんですけど、ちょっと引っ掛かる部分があったんですよ」

 昨年は、どんなシーズンだったんですか……という問いに、波形純理は胸の内を探りながら、率直な言葉を返した。昨年の夏に37歳を迎えたが、ランキングはまだ300位台前半。その前年の2018年には200位前後をキープし、グランドスラム予選にも全て出場した。

 その予選の舞台に戻り、さらに先の本戦に出たい――。そう切望しながらも、心技体が真っすぐテニスを指していない違和感が、常にどこかに引っ掛かっていたという。

 理由は、わかってはいた。出すべき答も、見えている。
「所属先の伊予銀行を辞めることにしたんです……自ら」
 それが彼女が選んだ、最良の道だった。

 愛媛県松山市に拠点を持つ伊予銀行は、波形にとって長く「最も楽しいホームコート」であった。

 愛媛での生活も楽しい。その日々の充実感こそが、何よりの「試合で勝つための原動力」でもある。ここ数年で最も良い結果を残した2017年はまさに、ホームコートや私生活の充溢が、試合のコートに還元される好循環の中にいた。
 
 だが、2017年の愛媛国体終了を機にチーム体制が変わると、波形を取り巻く環境やチームからの要望にも変化が生じる。

 個人の試合よりも国体に向けての練習を重視する機運が強まり、波形にも、チームと足並みを揃えることが求められた。グランドスラム予選を控えている時ですら、来たる国体を視野に入れ、砂入り人工芝コートでの合宿が組まれるようになっていく。

 それら移ろう環境の中で、気付けばあんなに好きだったホームコートが、「のびのびできない、帰りたいと思えない場所」に変容してしまったという。1つのボタンの掛け違いは、信頼関係を足元から崩し、やがては修復不可能な状態に陥っていた。

 その悩みの中で突入した、コロナ禍によるツアー中断や非常事態宣言は、ツアーキャリア20年目のベテランに、1つの決断を迫った。

 テニスを辞めようという思いは、全くない。まだ自分の中に、グランドスラムへと駆り立てる情熱が燃えていることは、確信できた。問題は、その火を焚く拠点をどこにするかだ。