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【レジェンドの素顔4】マッケンローのスーパースターとしての素質は身体にある|後編〈SMASH〉

立原修造

2021.02.13

マッケンローの集中力にはスーパースターとしての素質があった。写真:THE DIGEST写真部

 大一番におけるスーパースターたちの大胆さや小心をのぞいていくシリーズ「レジェンドの素顔」。

 1986年から休養に入ったマッケンローの復活をめぐって、テニスファンの間ではさまざまな意見が交わされた。マッケンローがナンバーワンの座に返り咲くためのカギとなるものは、いったい何なのであろうか。当時のマッケンローをフィジカル面から追ってみよう。

  ◆  ◆  ◆ 

 マッケンローのスタミナを考える時、忘れられない試合が1つだけある。1982年7月。デビスカップ、対スウェーデン戦の最終マッチでのことだ。

 この試合でマッケンローは、マッツ・ビランデルと対戦した。フレンチオープンを史上最年少で制したばかりの新鋭で手ごわい相手だった。

 第1セット9ー7(※タイブレークなし)、第2セット6ー2とマッケンローは幸先よく連取した。しかし、ビランデルの粘りは相当なもので、ジワジワと反撃に転じてきた。第3セットは、ウンザリするくらい長いラリーをうまくポイントに結びつけて、ビランデルが17ー15と取った。続く第4セットもビランデルが連取して、セットカウントは2オールとなった。

 この時点で、マッケンローの勝利を予想する人は少なかった。試合は明らかにビランデルのペース。肩で息をするマッケンローを、ビランデルはクールに見つめていた。
 
 しかし、ファイナルセットに入ると、マッケンローは鮮やかに甦った。ファーストサービスがビシビシと決まるようになったのだ。こうなると、試合の組み立ては楽になる。相変わらず、ビランデルはマシンのようにボールを打ち返してきたが、マッケンローは一歩も引かなかった。

 結局、最後はマッケンローが8ー6とビランデルを引き離して、アメリカ・チームに勝利をもたらした。ここで注目すべきは、マッケンローが最後まで集中力を持続させたことだ。なにしろ、試合は6時間39分もかかっている。

 6時間39分―。

 並大抵の時間ではない。まず、その長さに驚く。グランドスラム大会で、大熱戦ともてはやされる試合でも、4時間を超えるものは稀である。それが6時間39分となれば、ゆうに大熱戦2試合分はある。

 それも、ただ長かっただけなわけではない。一球ごとに迫熱した内容を持つ。そのマラソンゲームに勝ち抜いたマッケンローの忍耐力と集中力。さらに、それを支えた体力は驚嘆に値する。

 当時、デビスカップ・アメリカチームのキャプテンだったアーサー・アッシュはこう語っている。

「トップ・プロになると、技術的にそんなに差があるものではない。ゲームの組み立て方と集中力によって勝負がつくことが多い。もちろん、体力も。そういう意味では、ジョンはまさにスーパースターといえる」