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【レジェンドの素顔5】ベッカーに逆転負けしたマッケンローが、再び歩み出した最強への道|後編<SMASH>

立原修造

2021.03.31

マッケンローは復帰戦のボルボ・インターナショナルの準決勝でベッカーに敗北した。写真:THE DIGEST写真部

 大一番におけるスーパースターたちの大胆さや小心を、過去の連載記事を通してのぞいていくシリーズ「レジェンドの素顔」。今回は、80年代前半のスーパーヒーローだったマッケンローの後編だ。

 1986年に7か月にわたる長期の休養をとり、マッケンローは心身ともにリフレッシュ。6週間もラケットにさわらなかった時期もあったが、ヨガやウェートトレーニングにも積極的に取り組み、やるべきことはすべてやったようだ。自信を取り戻し、復帰戦として選んだのは、アメリカ・バーモント州で行なわれるボルボ・インターナショナルだった。

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 公式戦復帰第一戦を迎えたマッケンローは、結果的にベッカーに準決勝で敗れた。第1セットを6ー3で取りながら第2セットを5ー7で落とし、ファイナルセットもタイブレークの末、ベッカーに突き離された。

 この最後のタイブレークには、マッケンローのその後を占う意味で、キーポイントになりそうなシーンがいくつかあった。
 
 タイブレークというのは短期決戦だけに、1ポイント1ポイントがとても重みを増す。集中力の見せどころであるわけだ。ここでマッケンローのサービスはしばしばベッカーの逆をついてポイントをかせいだ。

 特に、マッケンローが4ー2とリードしたあとの7ポイント目が見事だった。このときのマッケンローのサービスはさほど速くはなかった。しかし、フォア側を予測していたべッカーの逆をついて、バック側に鋭く切れてきた。あわててラケットを出すベッカー。しかし、ボールはサイドを大きくアウトしていた。それも、ベッカーほどのトッププレーヤーには珍しいとんでもないアウトだった。いかにベッカーが逆をつかれて、うろたえていたかがわかる。

 もう一本。今度はマッケンローが5ー3とリードしたあとの9ポイント目だ。ベッカーのサービス。ファーストはセンターを大きくはずれてセカンドだ。ベッカーの打ったサービスは、サービスライン深くに入った。セカンドとしては申し分ないサービスだ。これをマッケンローはジャンプしながらバックハンドでリターンすると、そのままネットにダッシュしてきた。呆気に取られるベッカー。かろうじてパスを放ったがボールが浮いてしまって、マッケンローのフォアボレーの餌食になった。

 強引なリターン・ダッシュに出て、相手にプレッシャーをかける。かつてマッケンローがレンドルをとことん苦しめていたときの必殺戦法だ。これが出るとマッケンローは強い。タイブレークはマッケンローが6ー3とリードした。3本連続のマッチポイントだ。しかもマッケンローのサービスだ。よほど慎重な者でも、マッケンローの勝利を確信するだろう。

 ところが、マッケンローはここで、しなくてもいいドンデン返しを自ら演出してしまう。どこまでもハラハラさせる男なのである。